斤量の影響

東西の金杯のメンバーを見渡していて、なんかやたら負担重量重いなと思っていたら、今年から負担重量の決め方が見直されて、今までより重くなってるんですね。京都金杯なんて登録馬21頭のうち10頭が57.5キロを超えている。なんでも騎手の減量の負担を軽減させて優秀な人材を確保するためなんだとか。まあ確かに減量って大変ですからね。俺も一向に体重が減りませんよ。

この制度変更は馬券の傾向に与える影響がかなり大きいのではなかろうか。これまでは58キロというとかなりの酷量というイメージで、実際に安田記念天皇賞といった58キロを背負わされるGIではそれ特有の傾向が出ていたと思う。しかし今年からは58キロを背負う馬がどんどん現れるわけで、「斤量が競馬にどういう影響を与えるのか」をまず過去の傾向からよく理解しておかなければならない。一年の計は元旦にあり。正月休みのうちに考察しておこう。

 

まず「距離」に注目して過去を振り返ってみよう。重量が与える影響が距離によってどう違うか、直感を働かせるのはなかなか難しい。単純には、重い斤量を背負って走る距離が長くなっていく方が、影響が積み重なって行きそうな気もする。しかし斤量によって一番大きく影響を受けるのがスピード能力だとしたら、ダッシュ力が求められる短距離戦の方が影響の度合いは大きくなるかもしれない。一方で、そもそも重量を苦にしなさそうなマッチョなデカい馬ほど短距離を中心に走るという面もあるので一層複雑である。

とりあえず「重い斤量」としてパッとイメージが付く58キロという重量に限定して、2010年から2022年の12年間の芝のレースを遡って距離ごとに調べてみた。そうすると結構複雑で面白い傾向が出てきた。ざっくり言うと4つのカテゴリーに分けて考えることが出来そうだ。1000mの直線コース、1200-1400mの短距離戦、1600-2200mのマイル&中距離戦、2400m以上の長距離戦の4つである。

まず1000m戦。この距離は、函館やかつては福島・小倉でも行われていたけどあくまで2歳戦限定。58キロを背負う馬が現れるのは新潟直線コースだけである。このコースで斤量の影響が大きいことはアイビスサマーダッシュの結果からも良く知られている。斤量が重いとダッシュが利かないのだろう。( 0 2 0 10 )で見事に勝率0%である。

ただ意外なことに、1200m戦では一転して58キロの馬の成績が良くなる。どの競馬場、どの人気、どの脚質でもおおよそ万遍なく良い成績なんだけど、クラス別に見ると明らかに差があって、条件戦では( 0 3 1 38 )で勝率0%、オープン以上では( 16 8 10 77 )で勝率14%の回収率184%という極端な差が出てくる。さらにそのオープン以上の馬の成績を、馬体重別に注目してみた。てっきり重い馬の方が良い成績になるかと思ったけど、全然そんなことはない。むしろハッキリ傾向として出てきたのは「馬体重を減らして出てきた馬はダメ」ということ。マイナス4キロ以下で出てきた馬は( 2 0 0 25 )、それよりも馬体を維持していれば( 14 8 10 52 )で勝率17%で回収率228%である。びっくりですね。 1400mでも、1200mほどではないけど58キロの馬はなかなかの高い水準の成績をキープしている。

しかし1600mになると明らかに58キロを背負った馬の成績は悪くなり、その傾向は2200mまでどの距離でもほぼ一様である。1600-2200まで合計してカウントすると、58キロの馬は( 79 80 74 877 )で勝率7.1%の回収率67%に留まっている。これはクラス別や馬体重別に見てもあまり差はないんだけど、枠順別に見るとハッキリ傾向が出てきた。1-4枠は勝率5.4%の回収率35%という惨憺たる成績。しかし5-8枠は勝率8.4%の回収率92%と決して悪くない成績を収めている。やはり斤量がダッシュ力に与える影響が大きいのだろうか。スタートで後手を踏んだ時や直線で仕掛ける時、揉まれやすい内枠ほど斤量の影響が現れやすいのかもしれない。ちなみにこの内外の違いは、条件戦ほど顕著である。これは結構以外。今までもいろんな分析をやってきたけど、だいだい重賞戦線ほど明確に傾向が出てきて条件戦では差が現れないことが多い。

そして最後が2400以上の長距離戦。( 31 17 21 234 )で勝率10%の回収率124%。さらに距離別やクラス別に振り分けても、どの距離、どのクラスでも万遍なく58キロの馬は高い成績を収めているように見える。しかしここには気を付けるべき点があって、長距離戦で58キロを背負わされるレースのうち、実に69%がG1、つまり天皇賞・春なのである。ちなみに19%もG2が占めている。春の天皇賞では2012年に14番人気ビートブラック単勝159倍の万馬券を出していて、14番人気だけを除いてカウントするとG1では勝率6.0%の回収率36%に減ってしまう。まぁ天皇賞では全馬が58キロで走るわけだし、基本的には人気馬が強いGIだからしょうがないですね。しかしGIを除いてそれ以外でカウントしても、58キロの馬は( 18 4 9 62 )で勝率20%、回収率156%と好成績を収めており、どのクラスでも成績が良い。条件戦で一つ単勝万馬券が出ているのでG2,G3だけに絞ってみても、勝率20%の回収率94%だから決して悪くない。ちなみに1枠と5-8枠の成績が良く、2,3,4枠は勝率0%。馬群で揉まれると良くないのは長距離戦でも一緒なのだろう。

 

ここまでをざっくりまとめると、重い斤量は主にダッシュ力に大きく影響を与えていて、新潟直線を代表例として短距離戦やマイル戦、内枠ほど影響が出やすく、長距離や外枠になると影響は出にくくなる。ただし斤量を嫌われた結果として相対的にオッズが上がるせいか、長距離や外枠ではむしろ重い斤量の馬の方が期待値が高くなることもある。そしてこの距離別傾向を覆す例外が1200m戦で、重い斤量の馬が異様に強い。この点は金杯に関係ないのでまた別の機会に考察したい。多分ダートでもまた違う傾向が出てくるでしょうね。調べる時間がほしい。

 

 

以下では、金杯に直接関係しそうな芝1600-2200のマイル&中距離戦、それも重賞のハンデ戦に絞って考えよう。ここであらためて気になるのは、「重い斤量とは、具体的に何キロからなのか」ということである。さっきは58キロに絞って考えたけど、57キロは?57.5キロはどうだろうか?

そこを見分けるために「枠順」を利用したい。基本的に近年は内枠有利の傾向が顕著だ。しかし上記で考察したように、58キロを背負うと内枠よりも外枠の方が走りやすいのである。つまり、枠順ごとの成績を斤量別に見て行って、内枠よりも外枠の方が走りやすくなるような斤量こそが、「重い斤量」を見分ける境目と言ってもよいのではなかろうか。

こういう観点で枠順成績を斤量別に見てみた結果、ざっくり3つのカテゴリーに分離することが出来そうだ。答えから言うと、54キロ以下を軽ハンデ、55-57キロを中ハンデ、57.5キロ以上を重ハンデと定義するのが良さそうである。出走頭数の中でのそれぞれの割合は44%、50%、6%である。枠順ごとの勝率をグラフにして比較してみると、それぞれのハンデごとに傾向の違いが明らかである。

 

 

黒が全体のグラフ。1,2枠は勝率9%前後、7,8枠は勝率5%前後で、内枠の方が成績が良い。しかしこれは中ハンデの馬(緑)が支えていて、1,2枠では勝率11%、外枠では4,5%という極端な差が出ている。軽ハンデの馬(青)になると枠順ごとの差が小さくなるんだけど、どの枠順でも全体的に勝率が下がっている。これは地力の低さをハンデではなかなかカバーできていないということだと思われる。そして57.5キロ以上の重ハンデ(赤)では、全体とは逆に1,2枠の成績が悪く、3-6枠の方が遥かに成績が良い。これは上で考察したことと同じである。ただし外枠すぎるとダメというのも面白い。このあたりは多分距離やコース、脚質によっても差が出てくるところだと思う。

 

ちなみに枠順ごとの回収率という点でプロットしてみると、また違った側面が出てくる。

全体の傾向として内枠の方が回収率が高く、中ハンデの馬はその傾向がより顕著になるという点では、勝率のグラフとほとんど変わらない。重ハンデを背負った馬も大まかな傾向は同じと言っても良さそう。違うのは軽ハンデの馬だ。どうしても実力不足で負けてしまう馬が少なくないので勝率は低めだったけど、その分オッズが付くので、回収率としては決して悪くない。むしろ7,8枠の馬に至っては回収率が100を超えている。軽ハンデの馬にとってもハンデ差を活かして勝ち切るには外枠の方が有利、というのはちょっと予想していない結果だった。

 

ここまでの考察から、「マイル&中距離戦のハンデ重賞では、57.5キロ以上だと斤量の影響が出る」ということ、そしてその結果として「内枠はダメ、3-6枠の方が良い」という傾向が分かってきた。

では同じくこの条件で57.5キロ以上を背負う馬にはどう影響が出るのか、今度は馬体重別に成績を見てみよう。そうするとおおよそ500キロを境に振る舞いが変わっている。499キロ以下では( 10 17 13 92 )で勝率7.6%の回収率50%、500キロ以上では( 8 6 6 62 )で勝率9.8%の回収率111%。やはりこの条件ではデカい馬のほうが重いハンデを苦にしていないことがわかる。苦手な1,2枠を消して考えると500キロ以上の馬の勝率は13%、回収率は145%にも達する。一方で469キロ以下の軽い馬は( 0 2 1 17 )で勝率0%という数字も出てくる。重いハンデを背負って期待値が高いのはあくまでデカい馬だけ、最低470キロ、できれば500キロは欲しい。

次に競馬場別にこの条件の馬の成績を見てみる。これも面白い傾向が分かった。全体的には勝率8.4%の回収率73%だけど、京都外回りと阪神外回りではなんと勝率0%。阪神に至っては( 0 1 0 10 )で複勝率すら9.1%に留まっている。ちなみに東京ではこの距離でハンデ重賞が行われていない。長い直線コースのマイル&中距離戦では、直線まで溜めてからの末脚勝負になることが多くて、その条件では57.5キロ以上の馬は斤量がダッシュ力に与える影響が大きく不利、ということではなかろうか。なお新潟は逆に57.5キロ以上の馬はこの距離区分だとかなり成績が良い。新潟は直線が下り坂になっていて、一旦加速してしまうと馬体が重い馬ほど止まらずに末脚が持続するという側面があるので、他のコースとはやはり大きく傾向が違うのかもしれない。小回りコースの中でも小倉はかなり成績が悪いし、関東と関西で騎手の乗り方の違いももしかしたらあるかもしれない。

 

以上の結果は、あくまで去年までのものという点には注意が必要である。今年からは全体的に斤量が増えるわけなのでまた多分違った傾向が出てくるだろう。しかしそれでも斤量が与える影響とそれをどういう馬が克服できるかについて、大よその参考にはなるのではなかろうか。