安田記念

東京マイルは一番馬券が難しいコースの一つ。特にGIになると、下級条件やGII, GIIIとも違ってペースが速くなって全く違うレースになる。

さらに安田記念NHKマイルCともヴィクトリアマイルとも少し傾向が違う。その違いとして、去年の予想で初めて、斤量の影響を考えてみた。1600以下の短距離重賞の中で、定量58キロ(牝馬56キロ)を背負わされるのはこの安田記念しかない。慣れない斤量を背負って、GIの速いペースのまま長い直線勝負を強いられるスピード決着は、中距離戦のそれとはまた違って想像以上に過酷なのではなかろうか。58キロの経験値があるかどうか、斤量を苦にしない大型馬かどうかがかなり重要ではないかと思う。

 

斤量が重要だと思った理由はいくつかある。

  1. まずリアルインパクトスピードワールドなど、大して強くもない3歳馬が安田記念で( 1 0 1 5 )とそれなりに活躍していたこと。3歳馬は54キロで出走できる。ちなみにこの2頭は前走で57キロを経験してからの3キロ減だった。
  2. 逆に4歳馬がほとんど活躍していないこと。全GIを年齢別成績に分けると本来は4歳馬が一番勝率が高く、ほとんどのGIで勝率9-11%台を記録している。安田記念も57キロで施行されていた86-95年の10年間では4歳馬が6勝、勝率8.3%で回収率123%を記録していた。しかし58キロに設定された96年以降、安田記念の4歳馬は勝率4.1%と一気に数字が低くなる。4歳58キロで勝ったのはタイキシャトルウオッカ、モーリス、エアジハードの4頭だけ。つまり史上最強級マイラーか、あるいは最強世代でもない限り、4歳では安田記念を勝てないのだ。4歳春に58キロを経験している短距離馬はほとんどいないため、斤量の経験値の無さが響いていると考えて良いのではなかろうか。
  3. 馬体が大きい馬ほど、相対的に斤量の影響が少なくなるはずである。実際に安田記念では馬体重が重い馬ほど勝率が高くなっている。馬体重459キロ以下は勝率3.1%、460-479は4.4%、480-499は5.8%、500-519は8.4%、520-539は10.2%、540以上は( 1 1 2 4 )で勝率11.1%、複勝率は50%もある。巨漢馬タイキブリザードは3年連続で馬券に絡み、ようやく勝利を掴んだ年は546キロに達していた。歴史的巨漢馬ヒシアケボノも550キロで12番人気3着に好走している。01年に馬連1200倍の超大穴が飛び出たときは9番人気ブラックホーク528キロと15番人気のブレイクタイム540キロによる決着だった。05年、マイルは長いと思われながらも凄まじい粘り腰で3着に健闘した香港馬サイレントウィットネスは550キロ。ちなみに翌年圧勝した香港馬ブリッシュラックも538キロ。他馬が長い直線で酷量にあえいで伸びを欠く中で、巨漢馬だけが最後まで止まらないイメージが浮かび上がる。
  4. 前走重い斤量を経験している馬の成績が良い。58キロに設定された96年以降、前走と比較して斤量が増えた馬は勝率4.7%の回収率36%、増減なしは勝率4.8%の回収率65%。そして今回減った馬は勝率14%の回収率211%に達する。前走重い斤量を背負った馬はそれだけでプラス評価できる。
  5. 56キロを背負う牝馬に目を向けてみよう。96年以降勝った牝馬は2連覇したウオッカだけ。この馬は3歳初戦のエルフィンSの時点で56キロを背負って圧勝した稀有な経験の持ち主で、毎日王冠では57キロを背負って健闘していたように、56キロなんて全く苦にしない馬だった。また05年10番人気2着のスイープトウショウは、前走都大路Sで初めて56キロを経験。大外を回して上がり33.1で最速ながらも前残り決着で届かなかったけど、今になって見直せば決して悪い内容ではなくて、その経験が活きたのか次の安田記念本番では豪快に追い込んできた。ほか99年3着シーキングザパール、00年4着スティンガー、07年5着アドマイヤキッス、13年4着マイネイサベル、15年5着ケイアイエレガントなど、安田記念掲示板を賑わせた牝馬のほとんどはそれまでに56キロで重賞制覇した実績があった。逆に56キロのマイラーズCを見せ場なく負けていたアパパネは、55キロのヴィクトリアマイルブエナビスタを撃破した後、1番人気に推された56キロ安田記念掲示板を外している。

 

最近の例も振り返ってみよう。

去年、斤量経験値の観点からピックアップした8番人気ロゴタイプと3番人気レッドファルクスが2,3着。サトノアラジンが抜けてしまったけど、前年の安田記念で4着の経験はちゃんと評価しても良かったかもしれない。

その前の16年は、58キロ以上で芝重賞4戦して全て馬券に絡むキャリアを持っていたロゴタイプ単勝37倍で見事に1着。前年覇者モーリスが2着を確保して、3着は前年安田記念4着の単勝29倍フィエロ。58キロ経験が全くなかった2番人気リアルスティール、3番人気サトノアラジン、5番人気ロサギガンティアあたりは敗退した。

その前の15年は、上がり馬モーリスが初の58キロを克服して勝ったものの、思いのほか苦戦した印象を受けた。58キロで条件戦を快勝していた上がり馬ヴァンセンヌが2着で、さらに3着には前年58キロで京王杯AHを勝っていたクラレントが12番人気で好走している。

そしてその前の14年。58キロで天皇賞中山記念を勝っていたジャスタウェイが辛うじて苦戦しながらも勝ち切って、2年前の2着馬グランプリボスが16番人気2着、前年2着馬ショウナンマイティが10番人気2着、前年3着ダノンシャークが9番人気4着とリピーター陣が好走。58キロ経験のなかったミッキーアイルワールドエースグランデッツァなどの人気馬は壊滅した。

 

単純にリピーターが強いと言ってもいいんだけど、やはり58キロの経験のある馬がきちんと実績を残している。あと気になったのは、斤量経験があっても、イスラボニータステファノスカレンブラックヒルダークシャドウダンスインザムードなんかは活躍しなかったこと。このあたりに共通するのは斤量経験が中距離でのものだった。中距離戦とマイルGIではペース配分がまるで違う。中距離での58キロは別物で、あくまで短距離戦で58キロを経験していることが重要なのかもしれない。

 

 

 

 

以上を踏まえた上で今年のメンバーの実績を眺めると、まず今年は異例なほど58キロの経験馬が少ないことがわかる。それだけ経験の浅い4歳馬が多くを占めているということだろう。1-8番人気までのうちリアルスティール以外はすべて4歳馬。しかしそれなら尚更、58キロの経験値を重んじたり、馬体重の大きい馬から買ってこそ大穴にありつけるのではないか。

それにしても3歳馬タワーオブロンドンの回避は悔やまれる。人気を落として絶好の狙い目だと思っていた。藤沢厩舎のレースの使い方はほんと嫌い。

 

今年、58キロを経験しているのは以下の4頭だけ。

-リアルスティール ( 0 1 0 3 ) 中距離GI 2着

-レッドファルクス ( 1 0 2 0 ) GII 1着、マイルGI 3着

-ブラックムーン ( 0 0 0 1 ) オープン特別5着

-ウエスタンエクスプレス ( 4 0 0 2 ) 香港条件戦のみ

まずブラックムーンの58キロ経験はあまり好走とは言い難いので消してみたい。スイープトウショウの負け方と多少似てるけど、あっちはもう少し見せ場があったし直近の経験というのも大きかったと思う。

リアルスティールはこれまで58キロを4回経験して、天皇賞での2,4着がある。一見見事な実績だけど、2000の58キロは別物。本来堅実なはずのこの馬がこれまで2回だけ惨敗したことがあって、それが58キロの安田記念毎日王冠ということに注意したい。むしろ58キロの短距離戦は一番合わないタイプかもしれない。

それよりは昨年に続きレッドファルクスか。デムーロに見放されて一気に人気薄。確かに去年ほどの勢いがない。しかし阪急杯では58キロを背負ってモズアスコットと互角に走ったし、高松宮記念もポジション取りが悪すぎて後半追えなかっただけで着順ほど悪い内容ではなかった。反応が鈍くなってる気はするけど、今なら1600の方が向いているかもしれない。

この中で一番面白いのは香港馬エスタンエクスプレスではなかろうか。香港馬らしく59.5キロや60キロでも勝っていて、特に560キロ台にも達する雄大な馬体が武器。近走もG1で好成績を残しているし、持ち時計も十分。20年前に安田記念で穴を開けた香港馬オリエンタルエクスプレスを思い出させる名前も怪しい。

 

 

あとは体重の重い馬で探すと当然キャンベルジュニア。条件馬の頃からやたら強い競馬をしたと思ったらコロッと負けたりしてなかなか評価しにくかった馬だけど、540キロを超える馬体を身に着けた今年は明らかに強さを増した。ハイペースの前潰れになったダービー卿CTでは先行馬唯一の上位入線で僅差2着。そして前走京王杯SCでも勝ちに行く競馬で最後差されたものの2着。時計勝負のレースで先行してタフな流れをそのまま耐えられる馬だと思う。

 

 

◎キャンベルジュニア

○ウエスタンエクスプレス

レッドファルクス

△スワーヴリチャード

 

 

斤量経験がないとはいえ、エアジハードの例があるように、前後の世代と十分力差のあるハイレベル世代であれば4歳馬でも来る可能性がある。ただたくさんいてどれを拾えばいいのか分からない。今回の趣旨からすると、520キロ台のスワーヴリチャードを選ぶのが筋だろうか。 距離短いと思うんだけどね。デムーロも東京マイルの成績良くないし。