札幌記念

G2になって一流馬が集まるようになって以来、基本的には実力のある馬が好走するレースになっていると思う。枠の有利不利や脚質が極端に偏る傾向も見られない。多少内枠が良いのと、追い込みは厳しいというくらい。


しかし強い馬が微妙に取りこぼすことが多いのも特徴の一つだ。一番人気の馬が期待に応えるかどうかを端的に見分けるとしたらレース間隔だろうか。
中8週までの一番人気馬の成績は( 5 2 1 1 )で、着外はいかにも怪しかったトーホウジャッカルだけ。ゴールドシップがハープスターに負けたのも、エアエミネムがサクラプレジデントに、コイントスがテイエムオーシャンとトウカイポイントに先着を許したのも終わってみれば実力の差という感じで、力は出し切ったと思う。それ以外の一番人気馬は見事勝利を収めている。
しかし中9週以上間隔が空いた一番人気馬は( 2 4 1 3 )で一気に勝率が悪くなる。勝ったのは天皇賞以来のセイウンスカイとダービー以来のアドマイヤムーンで、相手は格下しかいなかった。ジャングルポケット、マツリダゴッホ、ブエナビスタ、ダークシャドウ、モーリスなどのように圧倒的な人気を集めた一流馬が明らかに自分より弱そうな相手に負けている。休み明けで間隔を空けてからの札幌では、力を出し切れない可能性を疑った方が良い。
今年はヤマカツエースが大阪杯以来の中19週、エアスピネルが安田記念以来の中10週、サウンズオブアースがドバイ以来の中20週と、GI級有力馬が間隔を空けまくり。3頭もいれば1頭くらいは休み明けをものともしない馬もいそうだけど、過信は禁物だろう。





サウンズオブアースの父ネオユニヴァースは、種牡馬として全重賞26勝のうち、中山で( 13 7 4 65 )で勝率15%という凄まじい成績を残しているほか、札幌も実は( 4 1 0 14 )で勝率21%を誇る。ただネオユニヴァース産駒はロジユニヴァース、デスペラード、ネオリアリズム、ブライトエンブレムのように時計のかかる馬場を得意とするタイプと、アンライバルド、イタリアンレッド、ネオヴァンドームのように高速馬場でベストパフォーマンスを残すタイプにハッキリ分かれるように思っていて、もちろんサウンズオブアースは後者だろう。札幌はどうかという気がする。休み明けよりも2走目、3走目で目イチの仕上げで実力を発揮するタイプでもあるし、さらにここ2走が案外なことを思うとちょっと買いにくい。


人気を集めるヤマカツエースとエアスピネルは共にキングカメハメハ産駒。キンカメ産駒の重賞成績を全競馬場別にみると、関西4場では勝率10-12%と非常に高く、関東の競馬場でも新潟が勝率6%とパッとしない以外は概ね8-9%の勝率を残している。しかし北海道開催は( 2 4 6 28 )で勝率5%の回収率27%と酷い成績になる。
なぜ新潟と北海道という全く性質の異なるコースを苦手としているのか。これはコースの問題というより、開催時期のせい。10-12月が勝率10%で回収率121%、1-3月が勝率12%で回収率170%を誇るのに対して、4-6月は勝率9%で回収率66%、7-9月は勝率6%で回収率は31%にまで下がる。キンカメ産駒は基本的にみんな冬馬なのだ。
そして馬体重が重い馬ほどこの傾向は顕著に出る。500キロを超えるキンカメ産駒は、トゥザヴィクトリー産駒に代表されるように、夏は別馬のように走らない。毎冬ごとに成長して強くなったヤマカツエースは、デビュー時と比較して40キロも馬体が増えている。「GI級に成長した今の能力なら夏場くらい克服するだろう」と思われてのこの人気だろうけど、むしろ「510キロを超える今の馬体では例年以上に夏が危険」と見たほうがいいかもしれない。状態さえまともなら、この馬の武器である小回りで繰り出すキレ味を存分に発揮してくれそうだけども、一番人気なら疑ってかかったほうがいいかも。
エアスピネルの方も、距離延長も小回りも乗り替わりも大した問題ではないと思うけど、今までで唯一と言っていい凡走が9月の神戸新聞杯であったことを思い返すと、夏競馬にはやはり不安がある。


オッズ的にこの実績馬3頭を倒す期待がかけられているのはマウントロブソン。ディープインパクト産駒は函館以外どこでも走るし、短距離戦が増えるせいか夏もむしろ成績が上がる傾向にある。ただこの馬の場合、前走はちょっと怪しい勝ち方だったと思う。少頭数の超スロー団子状態からの末脚勝負でマイネルハニー、ダノンメジャー、ショウナンバッハをギリギリ倒しただけ。休み明けでよく勝ったなと思う反面、一気にレベルの上がるここでは過剰人気ではないか。むしろマイネルハニーの方がこの舞台なら面白いと思うんだが。




ということで有力馬4頭がいずれも今一つここで買いたくない。


消去法的に浮かび上がるのがロードヴァンドール。直線前半で早々と捕まったかと思いきや最後までギリギリ粘りこむのが持ち味。溜めれば直線勝負ができるタイプで相手なりに走る。この馬がマイペースで逃げたときにあっさり捕まえられる馬は多くないかもしれない。
最初はこれを本命にするつもりだったけど、明確な買い材料も見当たらないのは確か。この馬も休み明けだし、追い切りもイマイチに見えた。何より5番人気で単勝11倍台というのもちょっと面白みがない。もっと大穴を探してみよう。


サクラアンプルールもキンカメ産駒だし成績は完全に冬馬。
血統的に他に3頭出しはステイゴールドだけど、ステイゴールド産駒は坂のある競馬場ほど成績が良くて、日本一平坦な札幌競馬場だけは一度も重賞勝ちがない。北海道を得意とするはずのツクバアズマオーは最近負けすぎで、本来堅実なこの馬の走りと違う気がする。



血統面だけで言えば、夏競馬で圧倒的な成績を残し、特に函館と札幌の両方の重賞で回収率300%を超えるフジキセキに注目したいところ。
札幌( 1 2 1 2 )を誇るタマモベストプレイはどうだろうか。このうち着外に負けたとはいえ3年前の札幌記念ではハイレベルのメンバーの中、絶頂期のラブイズブーシェやエアソミュール相手に互角に走る6着だったわけで、この馬の隠れたベストパフォーマンスと言える。最近やたら長距離戦ばかり使われているけど、兄弟はみんな短距離馬だし、そもそもフジキセキ×ノーザンテーストでステイヤーになるはずもなく、きさらぎ賞勝ちもあるように本質的には中距離向きだろう。晩年のファストタテヤマが距離短縮時に穴を開けていたのを思い出す。スピード不足を洋芝で補って、函館・札幌の2000に出てきた時こそこの馬の狙い目ではないか。
この考察を重馬場だった前走函館記念の前にやっとけばよかったんだけど、さすがにこのメンバーでは力不足か。でもここでもう一回来たら面白いのでヒモで押さえておきたい。




本命はディサイファ。
札幌記念勝ちを含めて北海道競馬3戦3勝を誇る重い芝巧者。また7-9月は( 2 4 1 0 )で着外なしと夏が大得意。4歳夏に本格化して以降、GIは( 0 0 0 7 )で全て着外だけどそれ以外のレースでは( 7 5 2 6 )。この着外の6回も、唯一大敗した去年のチャレンジCを除けばG2で4-6着かG3で4着に入っている。極めて堅実に重賞戦線を引っ張ってきた。
2年前の札幌記念を制して、この1年半勝ち星がないけど、去年も年間通して走りは悪くなかった。AJCCを圧勝した後、さらに距離延長した日経賞は逃げて瞬発力勝負で差されて5着。ここで長距離に見切りをつけてマイルに転向し、安田記念では0.3秒差の6着に善戦。休み明けの毎日王冠は先行して6着に負けたけど極端な外差し瞬発力勝負に屈した格好で、先行馬では最先着の6着だった。そして迎えたマイルCS。直線最後の最後で伸びかけたところでミッキーアイルの斜行を喰らって大きく後退。ここでリズムが狂ってしまった。
その後チャレンジCで9着とGI以外で生涯唯一とも言える大敗を喫して、さらに大阪杯10着、安田記念13着と大敗続きで一気に「終わった馬」扱いされて今回全く人気していない。しかしチャレンジCは今思えば58.5キロの酷量だったし、GI好走後の疲れもあれば0.3秒差の敗戦で見限ることはなかったかもしれない。大阪杯は何の見せ場もなかったけど、4か月ぶりの休み明けだったし、もし仮に全盛期の力を出したとしてもメンバー的にはミッキーロケットに次ぐ8着がいいところだろう。続く安田記念は果敢に3番手で先行したものの先行馬総崩れの激流に飲まれて13着。他に先行馬はことごとく二桁着順に沈んでいるわけだし、1.31.5の超高速決着に対応するのも難しかった。
つまりこの3回の連敗で見限るのは早すぎる。G2とG3を2勝ずつ勝っているこの馬にとって、G3だと58.5キロは背負わされてしまうため、使うレースが極端に限られる。休み明けの大阪杯と安田記念は実は叩きのレースで、本命は実績ある札幌記念。最近の競馬界の高齢馬の活躍を思えば、4歳秋に本格化した晩成型のこの馬にとって8歳は老け込むには早すぎる。大得意のこの舞台でアッと言わせる可能性があると思う。




◎ディサイファ
○ロードヴァンドール
▲タマモベストプレイ
△サウンズオブアース
△エアスピネル
△ヤマカツエース