有馬記念

年の最後の大一番。ここで本命を託すには、トリッキーと称される中山2500への適性の高さと、GI戦線最後のこの舞台に良い体調で臨む臨戦過程を重視したいところ。


キタサンブラックはさんざん悩んだけど、軽視することにした。
この馬は春秋いずれもシーズン最終戦では( 0 1 2 2 )と一度も勝っていない。それ以外での( 11 1 2 0 )という完璧な成績とは雲泥の差があって、使い詰めで調子を落とすタイプ。有馬記念の最終追い切りも80秒想定が86秒かかってしまって翌日坂路調整を追加したとかなんとかで、疲労が溜まっている可能性は高い。
ジャパンCもかなり強い競馬だったけど、いつもなら並ばれそうになってからもう一伸びするところであっさり先頭を譲ってしまったのは気になった。かつて堅実な成績を誇ったテイエムオペラオー、ゼンノロブロイ、ブエナビスタでさえ、若干のデキ落ちが見られた最後の秋シーズンはラストランの有馬記念で馬群に沈んでいる。この馬も今年の宝塚の再現がありえるかもしれない。少なくとも1倍台の圧倒的人気に推されるのは違う気がする。最後まで逆らってみよう。

 

キタサンブラックと武豊を倒すなら未対決の3歳馬スワーヴリチャードとデムーロによる世代交代が一番イメージしやすいけど、さすがにこの馬は右回りGIでは重い印を打てない。手前を変えるのが下手で、トップスピードに乗るのが明らかに遅い。ジャングルポケット、テレグノシス、ウオッカなど、過去の有名なサウスポーが中山を克服した例はほとんどない。近走は枠順に恵まれた面もあったはずで、中山で外枠の今回は消してしまってもいいんじゃないか。

 

前走キタサンブラックを倒したシュヴァルグランも、スワーヴリチャードほどではないにせよ基本的には東京向き。この2頭の父であるハーツクライの芝GI成績は
-東京( 5 3 2 32 )
-京都( 0 10 3 30 )
-阪神( 0 3 2 22 )
-中山( 0 1 0 15 )
で、東京でしか勝っていない。京都でも2着はたくさんあって、阪神外回りでも2着があるけど、阪神内回りや中山ではほとんど結果が出ていない。つまり広いコースの速い馬場で一本調子でのびのび走った時が最大のパフォーマンスを発揮するタイプ。
ジャパンCは2400という距離以上に長距離適性を要するレースで、特に今年は馬場もそこそこ速くラップも厳しくて、さらに内がかなり有利な馬場状態だった。シュヴァルグランにとっては全てがうまく回ったレース。今回は全ての条件が悪化する。この2つのGIを連勝するほどの大物ではない気がする。

 

時計のかかる暮れの中山向きと思わせる有力馬はサトノクラウン。最初はこれを本命で考えていた。しかし一週前も最終追いもポリトラックで追い切ったことや、調教後馬体重が前走よりもさらに減っている点を見るとどうも怪しい。これも本調子にはないように見える。いっそ切ってしまおう。

 

 

有力馬の中に軸で信頼したい馬がいなくなってしまったので、穴馬からここで買える馬を探そう。今年は血統面から見てみたい。


中山競馬場の重賞で種牡馬成績を調べると、やはり二大種牡馬ディープインパクトとキングカメハメハが上位を占めるわけだけど、いずれも勝ち鞍は多いけど勝率も回収率もそれほど高くない。

ディープインパクトは他の競馬場と比べると明らかに1着よりも2,3着が増えてきて勝ち切れなさが目立つ。2000までは強いけど2200、2500になると成績が落ちてくる。この血統は長い直線、速い馬場、できればマイル戦がベストであって、中山2500はどう見ても向いていない。今回のミッキークイーンはバランスの取れた強い牝馬だけど、中山で外から牡馬をまとめて差し切るかというとそこまでではない。


キングカメハメハの方は冬馬ばかりだし、有馬記念でも実際にトゥザグローリー、トゥザワールド、ルーラーシップなどが活躍しているわけだけど、長距離が苦手という点ではむしろディープインパクトよりも深刻だ。中山重賞で2000以下なら( 14 12 15 86 )で勝率11%、回収率63%なのに対して、2200以上では( 1 1 5 29 )で勝率2.8%、回収率は3%しかない。今年有馬記念に挑む3頭もいかに距離適性をごまかせるかの勝負になる気がする。

最内枠を引き当てたキンカメ産駒ヤマカツエースは冬の中山が向くのは間違いない。当然有力なので押さえたいけど、前走ジャパンCなんかはもう少し見せ場を作ってくれても良かったと思っていて、去年ほどのデキには無さそうな気がする。最近脚質が後ろ寄りになっているのも気になるところ。

それよりも同じキンカメ産駒でサクラアンプルールの方が面白い気がする。
一見安定しない成績だけど、道悪が極端に不得意というだけで、良馬場の芝なら( 4 1 1 3 )。着外の3戦は、デビュー戦と、休み明けの東京のスローで上り勝負の0.1秒差4着、そして初の関西遠征でハイペースで途中から競馬をやめた大阪杯の3戦だけ。得意条件に限れば、中山( 3 1 1 0 )のほか、今年の札幌記念でもアッと言わせた。小回りコースで内で溜めれば直線で一瞬だけ素晴らしい脚を使う。その一瞬の脚を使えるかどうかがここでは勝負の決め手になりそうな気がする。
鞍上は中山中長距離なら日本一上手い蛯名正義。最近は全体の成績がイマイチだけど、それでも重賞だけならかなり活躍している。
天皇賞も2番手で積極的に進めて早めに交わされる厳しい展開ながら8着に粘った。道悪ではまるで走らないこの馬にとっては上出来の成績。体調はかなり良さそうだし、中山向きの脚が使えて、中山を知り尽くした騎手が乗る。前走東京での負けは隠れ蓑。マツリダゴッホの再来になる可能性を秘めている。

 


中山で一気に成績を上げる種牡馬と言えば、ステイゴールドとネオユニヴァース。しかしサウンズオブアースに往年の勢いを求めるのは酷過ぎる。レインボーラインは本当にステイゴールドなのかと疑いたくなるくらい、小回り向きのピリッとした脚を感じない。スタミナ任せの前潰れレースでしか浮上できないイメージ。エアシェイディが突っ込んできたような展開になれば別だけど、キタサンがベースを握る展開でそれはないんじゃなかろうか。

 

相対的に浮上してくる血統はマンハッタンカフェ産駒。

マンハッタンカフェは超スローからの瞬発力だけで長距離GIを3つ制した異色のステイヤー。実際種牡馬になってみると、ヒルノダムールが天皇賞を勝ったくらいで、他は長距離よりもむしろスプリントやマイルの活躍馬の方が目立っている。距離適性について個体差が大きくてなかなか統一的なイメージを把握しにくい種牡馬ではある。
別に中山の成績がいいわけでもなく、むしろ良くない。マンハッタンカフェ産駒が一番得意にしているのは文句なしに札幌・函館の北海道シリーズで、次いで高い回収率を残しているのが中京、小倉、福島と続く。主場4場と新潟コースでは一気に成績が下がるので、基本は小回りの平坦コースでこそ。中山と阪神では連対率のわりに勝率が非常に低いところを見ても、坂は苦手なんだろう。しかし中山もスローの中長距離戦になってしまえば、勝負を分けるのは芝の重さや小回り具合であって、坂はあまり重要ではなくなる気がする。実際、中山の中長距離戦に限ってしまえば、何だかんだで今年シャケトラが日経賞、ルージュバックがオールカマーを勝っていて、過去にもゲシュタルトがこのコースで活躍するなど悪くない成績を残している。

そしてこの血統で全体的にハッキリしているのは、根幹距離よりは非根幹距離に強いということだ。マンハッタンカフェ産駒の重賞成績を根幹距離で見ると
-1600 ( 6 9 9 102 ) 勝率4.8%
-2000 ( 12 17 13 152 ) 勝率6.2%
-2400 ( 1 6 4 51 ) 勝率1.6%
といずれも低い勝率で、2,3着止まりが多くなかなか勝ち切れないことがわかる。それに対して非根幹距離では
-1800 ( 12 12 6 98 ) 勝率9.4%
-2200 ( 6 2 6 40 ) 勝率11.1%
-2500 ( 1 2 1 19 ) 勝率4.3%
と明らかに成績が上昇し、勝ち切る例が増えている。実際クイーンズリング、ルージュバック、シャケトラの3頭でこれまで重賞を9勝しているけど、見事に非根幹距離ばかり。

これは結構意外な気もする。なぜなら2200や2500は、この血統が本来得意とする小回り平坦のローカル重賞にはない距離設定だからだ。にも関わらずこの距離で成績が急上昇するということはそれだけ距離適性が高いということ。つまり一見苦手に見える中山コースであっても、非根幹距離の中長距離重賞という点で、マンハッタンカフェは買える種牡馬ということになる。

 

とはいえ今回シャケトラには手が出ない。日経賞は見事だったけどそれ以降見せ場が無さすぎるし、騎手も頼りない。

 

内枠を引いていたら、この有馬記念はルージュバック本命で勝負しようと思っていた。オールカマーでステファノスやタンタアレグリアを倒したのは見事。オークス先行して2着があるようにスタミナは豊富で、脚を溜められるこれくらいの距離の方が合いそうではある。

しかし残念ながら外枠を引いた。北村宏司は内枠を引かないと何もできない印象が強すぎる。GIで1,2枠に入ったときは( 3 1 0 12 )で勝率19%、回収率176%とかなりの成績だけど、3枠より外だと( 0 2 6 82 )で連対率2.2%しかない。あと今の中山はかなり時計がかかる。瞬発力が発揮しにくい馬場ではこの馬は難しいかもしれない。

 

それよりは見事内枠を引き当てたクイーンズリングが面白い気がする。
4-9月は( 0 1 0 6 )、10-3月は( 6 1 0 4 )という完全な冬馬。デビュー直後は中山で2連勝していて、いずれもマクリ気味に進出して圧勝する強い内容だった。冬の中山の非根幹距離はベスト条件。
今年は牝馬限定戦だけ4戦して全て着外という目立たない成績だけど、阪神牝馬Sは道悪でまともに走っていないし、ヴィクトリアマイルは向かない条件ながら内から一瞬伸びて見せ場は作った。府中牝馬Sは超スローで内の前が残る展開で外を回して伸びている。エリザベス女王杯もキレ味が削がれる馬場で内で溜めて伸びず。それでもここ3戦いずれも0.3-0.4秒差には詰めてきていて、スパッと切れるタイプではないこの馬なりに調子は悪くないように見える。得意の中山、時計のかかる馬場で、内で溜める展開なら一瞬の脚が活きるかもしれない。
そして今回鞍上がルメールに乗り替わり。かつてハーツクライでディープインパクトに、サトノダイヤモンドでキタサンブラックに土を付けた見事な騎乗経験があり、さらには10番人気オーシャンブルーや7番人気エイシンフラッシュを2着に持ってきたこともある有馬記念男とタッグを組むのは頼もしい。
今年の重賞成績を見ると外人騎手ではデムーロの( 18 6 9 29 )で勝率29%、回収率145%という数字が圧倒的だけど、ルメール自身も( 13 7 6 41 )で勝率19%、回収率125%とかなり高い数字を残している。二人の大きな違いは活躍した馬の人気。デムーロは1番人気から5番人気あたりまで万遍なく勝たせてしまう。それに対してルメールは、重賞全騎乗の90%を占める1-5番人気に騎乗した時は回収率は50%と非常に低く、人気に応えてくれないイメージが強い。本領発揮するのはむしろ穴馬に乗った時。今年は6番人気以降で( 3 0 0 4 )、回収率768%という驚異的な数字を残した。今年の目黒記念のフェイムゲームやキーンランドCのエポワス、一昨年ではローズSのタッチングスピーチや府中牝馬Sのノボリディアーナなど、戦前予想では想像もつかなかったキレ味を引き出して穴馬を勝たせてしまう。日本に来始めた頃もそうだったけど、基本的には穴馬に乗ったときこそ思い切った騎乗ができる騎手。今回のクイーンズリングには最も適した騎手かもしれない。

 


◎サクラアンプルール
○クイーンズリング
▲ヤマカツエース
△キタサンブラック
△シュヴァルグラン
△ブレスジャーニー

 


外を回した馬が伸びを欠く中で、キタサンも全盛期の粘り腰を見せられず、そんな中で馬群を割って伸びてくるのが◎○▲あたりのイメージ。
頭まで期待するならサクラアンプルールだろう。あとは柴田善臣から有馬記念得意の三浦皇成に乗り替わるブレスジャーニーまで押さえるか。