天皇賞・春

先行抜け出しの磐石な横綱競馬が見についてきたゴールドアクターは当然有力だけど、3歳夏以降8戦7勝というほぼ完璧な成績のうち、唯一3着に負けたのが菊花賞というのが気になる。それもサウンズオブアースに3馬身突き放され、さらにタガノグランパ、ショウナンラグーンと同程度の走りしかできなかったわけだから、少なくとも菊花賞はこの馬の実力を発揮できる舞台ではなかったということだろう。
京都コース、高速決着、輸送競馬が合わなかった可能性もあるけど、もう一つ根本的な敗因として距離不安は考えておきたい。主戦の吉田隼人や中川調教師のコメントを見ても、距離適性に関しては意外なほど慎重だ。
スクリーンヒーロー産駒の全成績からゴールドアクター自身を除くと、1400以下では( 6 6 8 65 )で連対率14%、1500-1800では( 14 7 12 132 )で連対率13%だけど、2000では( 1 1 2 52 )で連対率は4%にまで下がり、2100を超えると( 0 1 1 32 )で実は勝ち星が無い。そもそも祖父グラスワンダー産駒自体、アーネストリーやサクラメガワンダーのような中距離馬以外はマイネルスケルツィ、マイネルレーニア、セイウンワンダーのようなマイラーの活躍馬が多く、決して距離が伸びて良い血統ではなかった。母方からも出てくるのはせいぜいダートの短距離馬。血統的には2000か2200が限界と言ってもいいくらい。先行して速い上がりを使うこの馬の強さが3200の舞台でどうなるかは分からない。
あとは展開面も気になる。先行抜け出しと競り合いでの強さがこの馬のウリで、3番手以内につけると( 7 0 0 0 )と無類の強さを誇るのに対し、5-7番手で競馬をすると( 1 2 1 2 )。スパッとキレないので追う立場になるといまいち差し損ねる。今回は展開予想は難しいけど結構先行馬が揃った印象で、外枠から5-6番手で進める展開になったとしたら直線伸びを欠くシーンは十分考えられる。


キタサンブラックも微妙なところ。主導権を握れるスタートセンスと気性を最大限利用して高い瞬発力で押し切る強い馬だと思うんだけど、やはり本質的には中距離向きだろう。菊花賞を勝ったとはいえ、スローからの出入りの激しい競馬を内でジッとして脚を溜めたのが結果的に功を奏した印象で、外を回した4着タンタアレグリアと力量的にはほぼ互角としか評価できない。そのタンタアレグリアはダイヤモンドSと阪神大賞典で古馬に完敗している。


もしキタサンブラックがハナに立ってスローの展開に持ち込めば、能力的には上位争いできるに違いない。ただそうなると一番得をするのはその直後で進めればよいゴールドアクター。これにマークされるくらいなら武豊はもっと後ろにつけることを選ぶんじゃないかと思う。そうなると逃げるのは他の馬。
折り合いのついた淡々とした流れだとキタサンとゴールドに有利に働いてしまうのはどの騎手も分かってるはずだし、この2頭意外はスタミナ自慢の馬が多いので、それなりのペースで流れるか、前半落ち着いたとしても早めのロングスパートがかかるレースになるんじゃないかと思っている。そうなるとキタサン、ゴールド両方とも消える可能性は十分ある。スタミナ重視で予想したい。




本命はフェイムゲーム。
3歳春から重賞を勝っていたけど、本格化を感じさせたのは4歳秋から。アルゼンチン共和国杯では57キロを背負ってクリールカイザー以下を全く相手にせずに力の差を見せ付けて圧勝。タフなレース展開でほとんどの馬が直線止まる中、この馬の脚色だけが全く違っていた。AJCCはゴールドシップほか外を回した差し馬は全滅する流れだったので参考外。続くダイヤモンドSは58キロのトップハンデでファタモルガーナ以下を圧倒した。ここでも直線の脚色が他馬とは全く違う。上がり2位と3位のファタモルガーナ、カムフィーが35.3-35.4で締めてそれ以外はバテバテになる中で、この馬だけが34.6と別次元の末脚を繰り出して豪快にごぼう抜きを決めた。
続く春の天皇賞でも直線で行き場を無くす不利を覆してタイム差無しの2着に好走。当時は内が圧倒的有利で、掲示板の他4頭はネオブラックダイヤなどの人気薄も含めて1枠と2枠が独占したように、トラックバイアスが極端なレースだった。外を回したキズナ、サウンズオブアース、ホッコーブレーヴ、デニムアンドルビーあたりが全く伸びなかった中で、ただ1頭だけ外から豪快に伸びたのがフェイムゲーム。内容的にはダントツで一番強い競馬をしたと思っている。
豪州遠征した昨年秋は、コーフィールドCでは4角最後方の絶望的な位置から直線よく伸びて6着まで追い上げ、本番メルボルンCでは1番人気に推されたほど。その本番では珍しくかかった上に前が止まらない流れで大外を回して負けてしまったけど、最後はそれなりに伸びていた。帰国緒戦、3連覇のかかった前走ダイヤモンドSは稍重とは名ばかりの田んぼのような馬場状態で4馬身離されて2着。勝ったトゥインクルが54キロの軽量で道中は外を回してスムーズに先団に取り付いて伸びたの対して、こちらは58.5キロの酷量を背負って後方の内ラチ沿いで泥にまみれながら最後までしっかり伸びてきて、3着以下は5馬身突き放されたのだから負けてなお強し。改めて驚異的なスタミナを見せ付けた。
ステイヤーとしての資質なら現役ナンバーワンだと思う。これまで長らく主戦を務めていた北村宏司は勝負どころで全く動かないヘタレだったけど、もう少し強気に乗ってくればもっと大舞台で活躍できたはずだと思っている。今回の鞍上は豪ナンバーワンジョッキーのボウマン。日本にも昨秋やってきて、それまで散々な成績だったトーセンレーヴとワールドエースを復活させ、ハートレーをクラシック候補と見間違えさせるほど結果を残したわけだから申し分ない。ようやくこの馬の真の実力が見られるかも。
陣営は「脚質的に前にいけない」とか行ってるけど、宝塚記念で2番手から競馬を進めたこともある。内枠からそこそこのポジションを確保するようならかなり有力だと思う。あとはできるだけペースが流れることを祈るばかり。





もう1頭、潜在的なスタミナに期待してファントムライトを狙ってみたい。父は先日安楽死処分の報が流れたオペラハウス。死んだ種牡馬の仔は走る。
オペラハウスは日本に合わないことで有名なサドラーズウェルズの直仔だけど、それでもテイエムオペラオー・メイショウサムソンという2頭のトップホースを輩出したほか、アクティブバイオ、ミヤビランベリ、オペラシチーといった個性派ステイヤーも送り出した。トーセンクラウンやテイエムアンコールも嵌ると強かった。芝の獲得本賞金順で次に来るのがヨイチサウスになってしまうあたり、「実績A・安定C」というダビスタのパラメーターに最も相応しい種牡馬だったと思う。産駒は短距離向きのスピードはなく、かといって直線でスパッとキレる末脚もないのでスローになりやすい中長距離戦でも瞬発力で負ける。いかにも日本近代競馬に向いていないタイプに見える。
ただし欧州血統だからと言って洋芝に強いわけではないことには注意したい。このあたりはミヤビランベリがいたころに詳しく調べて考察した記憶があるけど、競馬場で言えば札幌・函館が極端に苦手で、季節で言えば冬の中山・阪神が最も成績が悪い。道悪適性がかなり高いとはいえ、時計がかかる芝が得意というわけではなく、むしろ高速決着になったときに穴を開けることが多い。そして古馬になってから大きく成長する晩成血統でもある。
重要なのは何よりもまず長距離戦であること。一貫したペースで流れてキレ味勝負にならないこと。そして小回りで何度もコーナーを曲がるのではなく大回りの広いコースで息の長い末脚を繰り出せること。この血統が最も活躍できる条件に最も近い舞台が春の天皇賞だ。全盛期のミヤビランベリをこのレースに出したかった。


ファントムライト自身は600頭を超えるオペラハウス産駒のなかでたった4頭しかいないノーザンファーム出身で、祖母はダイナカール。つまり伯母にエアグルーヴ。日本を代表する名牝血統を受け継いでいて、かつ母父はサンデーサイレンス。これまで母系に恵まれなかったオペラハウス産駒の中では最も良血と言っていいのではなかろうか。
デビュー当初は阪神競馬場ばかりを使われて善戦止まり。長期休養も多かったけど、4歳秋以降、新潟と東京を中心に使われながら順調に好成績を上げてきた。6歳秋に新潟記念で13番人気ながら3着に入線して以降はオープンや重賞でも全く崩れず、厳しい展開でも最後は必ず伸びてくる。直線入り口で置いていかれてそこからジリジリ差を詰めてくるのがこの馬の好走パターン。
前走の中日新聞杯も9番人気ながら2着を確保。中京2000だけやたら走るサトノノブレスに瞬発力勝負で先着を許したのは仕方ないとして、このレースでの一番の収穫は、積極的にポジションを取りに行って3番手からレースを進めてもしっかり結果を出したこと。これで本番でも好位につけてくる目処が立った。
早くから新潟・東京を得意にしていたように、広いコースで息の長い末脚を繰り出してこそ良さが出る馬。中京でも結果を出したあたり左回りの方が良い可能性もあるけど、準オープン卒業は中山だった。この血統にしては道悪が苦手なようだけど小回りの福島記念でも最後しっかり伸びてきたし、右回りで特に能力が落ちることもないだろう。
全成績( 5 5 6 6 )と安定していて、特に4歳秋以降は( 3 4 5 3 )。着外に負けた3戦は1800と1600で、2000では全て3着以内に入っている。本格化以降2000より長い距離では全く使われていないあたりがいかにも不気味だ。勝てないながらも堅実な成績を残してきた馬が距離伸びて劇走、というのは菊花賞で台頭する晩成型ステイヤーにも共通したパターンだと思う。
鞍上は三浦への乗り替わり。長距離戦は騎乗機会が少ないけど、これまでにマイネルキッツ、トゥインクル、フェイムゲームでそれなりに結果を出していて、短距離に比べれば得意なほうだ。藤原英昭厩舎もエイシンフラッシュ、トーセンラー、マッキーマックス、エアジパングなど長距離戦で十分実績がある。京都の長距離戦で秘められたスタミナが解放されるなら一気に大穴の使者になるかもしれない。



◎フェイムゲーム
○ファントムライト
▲シュヴァルグラン
△サウンズオブアース
△アルバート


シュヴァルグランは前走阪神大賞典の完勝には少し驚かされた。福永も最近やたら調子が良いし人気でも押さえておくか。


すっかり善戦マンの印象がついたサウンズオブアースは良い脚が一瞬しか使えず、競り合いになるとどうしても弱い馬だけど、菊花賞では実際にゴールドアクターをちぎっているわけで、京都の長距離戦で高速決着になったら今度は叩き合いに持ち込むことなく先着する可能性は十分ある。ただ今春の京都はそれほど極端には馬場が速くないのとデムーロの騎乗停止があったのでやはりヒモ止まり。枠もちょっと外過ぎた。


アルバートまで押さえる。有馬記念でも期待したけど、スローで最後方から大外を回す展開で11着。同じようなコース取りだったラストインパクトには先着したわけなので悪くない。前走日経賞は人気を集めながらも有馬記念掲示板組に水をあけられてしまって少し評価を落としたけど、これも有馬記念以上の超超スローから上がり3ハロンだけの勝負になったのが大きかった。サウンズオブアースとゴールドアクターらのトップレベルの瞬発力に対して直線入り口で離されるのはある程度仕方が無い。この馬もトップスピードに乗ってからはジリジリと差を詰めてきていて、上がり3ハロンの数字ならゴールドアクター33.8、サウンズオブアース33.9に対してアルバートは34.0。これなら距離が伸びてペースも展開も変われば十分逆転可能。ステイヤーズSを5馬身千切ったスタミナを活かせれば上位争いできるだろう。