日本ダービー

注目された柴田善臣の逃げっぷりは、前半1000の通過が62.5。さらにそこから12.7-12.9-12.5とスローの続くラップを刻んだ。1600は1.40.6。実質的にラスト4ハロンだけの勝負になった。
過去10年のダービーにはないこの異例の「スローペース」。そして雨が内から乾いていく「トラックバイアス」。この2つが絡んだ今年の日本ダービーは、全馬が力を出し切った、とはいかなかったように思える。そのへんは5着にロジック、6着にアペリティフが入ったこと、そしてスローにも関わらず上位と下位の着差がかなり開いたことからも見て取ることが出来る。
特にサクラメガワンダー、フサイチジャンクの2頭は、多少過剰人気ではあったかもしれないが、持ち味を全く発揮できなかった。



とは言え、緩みのないペースを得意とするのはむしろ1着メイショウサムソン、2着アドマイヤメインの両方にも当てはまること。特にアドマイヤメインは、1000㍍を60秒台くらいのラップでどんどん飛ばすべきだった。サムソンに並ばれたら終わってしまう。アドマイヤメインから馬券買ってた人のほとんどはそう考えてたと思うが、柴田善臣氏だけは違う考えをお持ちだった。
だが差されてからの粘り腰は凄かった。相手がサムソンでなければ差し返していたかもしれない。サムソンの抜かせない勝負根性のほうが一枚上手だった。


3着には追い込んだドリームパスポート。ライバルのサムソンが何だかんだで1番人気に支持されたのとは対照的に、毎回実績ほど人気しないのはむしろこちらの方のようだ。
だが瞬発力はムチャクチャ凄い。後方12番手で直線を向いて一旦は前が詰まったものの、他の差し馬たちがエンジン全開に吹かすのを一瞬で交わし去って、先行勢への追撃体勢に入った。四位が「一瞬、夢を見た」とコメントするのも無理はない。2着はあるかという勢いだった。
ただ直線後半では脚色が一緒になってしまった。あのへんは父フジキセキの距離適性の影響か。だが京都1800のきさらぎ賞でメイショウサムソンに土をつけたように、この馬に適した舞台なら相当強そうだ。距離適性の短いトニービン産駒のようなイメージ。


4着マルカシェンクは直線で一瞬不利を受ける場面もあったし、復帰2戦目であることを考えればまぁ上々の結果といえるだろう。秋にサムソンとの差をひっくり返すことが出来るか楽しみを残した。
5着にはスローをいかしたロジックが入線。多分このペースを味方につけたのは出走馬中この馬一頭だけだと思う。
6着アペリティフは外を回したわりにはよく粘ったが、そのぶん内のごちゃついたところを避けてスムーズに走ることが出来たのも大きい。典型的な「相手なりに走る」タイプ。


スタートがイマイチで後方策を余儀なくされたアドマイヤムーンは、狭いところに閉じ込められて必死に追い込んで7着。このスローに最も苦しまされた1頭だろう。全く伸びなかったサクラメガワンダーとフサイチジャンクの不甲斐なさに比べれば、将来の中距離戦に望みは繋がったが、それでもこの程度の差し脚では強い先行馬には届かない。
もともとはこの馬もそれなりに前から競馬ができたはずだが、ラジオたんぱ杯、共同通信杯、弥生賞と、クラシック戦線の主役にのし上がるにつれて、「抜け出したらソラを使うから」と言って先行策を捨てていってしまった。その結果としてサムソンやメインのような強い先行馬に太刀打ちできなくなったのは皮肉ではある。
復権のためには先行策に戻すしかないと思う。


9着のトーホウアランは直線入り口で大きく挟まれる不利を受けた。瞬発力タイプではなく長く脚を使うタイプなので、東京のスローという条件も向かなかった。
ダンスインザダーク産駒で先行力のあるタイプは出世する。キャリアの足りないこの時期から一線級のレベルを経験したのも大きい。秋の京都開催までにどれだけ成長できるか期待したい。





最後に、勝ったメイショウサムソン。スローで他の馬が順調さを欠いたこともあって、想像以上の「楽勝」だったように見えた。メインとの競り合いも、あの形に持ち込んでしまえばあと何百㍍続いても譲らなかっただろう。仮に速いペースになっていたとしても、後続に差されたとは考えにくい。1番人気のプレッシャーをものともしなかった石橋守会心の騎乗だった。
自分からレースを作れる先行力、馬場とペースを苦にしない適応力、並んでから譲らない勝負根性など、総合的な実力の高さがダービー馬として相応しかった。あとは純粋な高速馬場にも対応できるようになれば、テイエムオペラオーの領域まで見えてくるかもしれない。
2歳時に中京2歳Sをレコード勝ちしたとき、「オペラハウス産駒でこんな時期から活躍するということは、将来は凄い大物になる」という誰かの発言を目にした覚えがある。これからまだまだ成長するのか?
2年連続の三冠を確実に視界に捕らえて、ますます先が楽しみなった。
京都で待っています。