有馬記念

古馬王道GI戦線の勝ち馬が珍しくみんなでグランプリに出走してきた。3歳クラシックホースがいないのは残念だけど牡馬三冠の2着馬は一応全部いることになるし、現役で考えられるメンバーは大体揃ったようなので素晴らしい。ただそのわりに伏兵陣の中で一発を匂わせる馬を見つけるのが難しい。ウインマリリンが出ていれば買いたかったけどなあ。

 

レースのカギを握るのはやはり逃げるタイトルホルダー。この馬を中心にして今年の有馬記念がどういう展開になるかを真剣に考えてみたい。

有馬記念中山競馬場を約1周半回るレース。スタートから約900m走って1度目のゴール板を通過して、残りは約1600m。ゴール前200m地点から約100m分だけ心臓破りの急坂があることは有名だけど、それと同じ勾配の急坂が、ゴール板を超えた後で200mにわたって続く。このあたりをどういうペースでこなすかによって展開が大きく変わってくる。坂を上るわけだからペースダウンするのが当然で、典型的には、残り1600-1200mの2ハロンで13秒台までペースが落ちて、そこで先行馬が一息入れることになる。問題はその後、坂を一気に下る1200-1000の1ハロン。ここも12秒台後半で行けるようなら、残りは1000m。この5ハロン勝負になるといわゆるスローの上がり勝負になりやすい。一方、1200の時点でペースアップすれば6ハロン勝負。こうなると息の長い末脚が求められる耐久勝負になる。このあたりに注目して、90年代以降の有馬記念をいくつかのパターンに分類してみよう。

(1)超スローペースの末脚勝負

これは1周目ゴール板を過ぎる前の残り1800、あるいはその前からすでにペースダウンして、さらに残り1200でもペースが上がらず、純粋に5ハロン勝負になるケース。実例は99年グラスワンダーと11年オルフェーヴル(以下、逃げた馬ではなく勝ち馬で表現する)。01年マンハッタンカフェもここに入れてもいいか。ここまで極端なスローになると馬群が密集するので、前の馬はリードよりもむしろ後続の目標にされやすく、脚を溜めた差し・追い込み馬のキレ味が物を言う展開になりやすい。

(2)スローからロングスパート戦

残り1800あるいはその前からペースダウンしているけど、下り坂から一気にペースアップして6ハロン勝負になるケース。実例は90年オグリキャップ、92年メジロパーマー、10年ヴィクトワールピサ。7ハロン勝負だけど05年ハーツクライもここに入れていいかも。これらのレースはロングスパートなのに、後ろの馬は届かず、前の馬で決着していることがわかる。前半十分脚を溜めていれば、GI級の先行馬は6ハロン勝負でも後続を十分振り切れるということだろう。メジロパーマーなんてラスト6ハロンから11.4-11.1-11.7-11.9-12.4-13.0という大逃げで後続を振り切っている。

(3)上り坂でもペースが落ちないハイペース戦

こういうケースもある。これはさらにいくつか場合分けが必要だろう。

 (3-1) 大逃げをする馬が現れる

大逃げする馬が玉砕的な異常ラップを刻むケース。実例は94年ナリタブライアン、03年シンボリクリスエス、19年リスグラシューあたり。このときは馬群が縦長になるせいか枠順の有利不利がほぼ無くなり、総合的な能力が結果に直接反映されやすい。結果大きな着差が付きやすくなる。

 (3-2) 先行馬がみんなでハイペースに巻き込まれる

これに該当するのは09年ドリームジャーニー、12年ゴールドシップ、13年オルフェーヴル。当然のことながら先行馬はみんな潰れて、追い込み馬が上位を独占する。

 (3-3) 前が止まらない高速馬場

異常な高速馬場だと速いペースでもそのまま前が残りうる。これは04年ゼンノロブロイのみで、今の中山とは本質的に馬場が違うので参考外。タップダンスシチーと一緒に作ったこのレコードはまだ当分破られそうにない。

 

以上の(1),(2),(3)は極端な展開なので結果にどう結び付くかもわかりやすいけど、わりと例外的なケース。以下ではもう少しスタンダードに、残り1600-1200でペースが落ちつく場合を見てみよう。

(4)残り1600から1000までペースが落ちて5ハロン勝負

実例は01年テイエムオペラオー、06年ディープインパクト、14年ジェンティルドンナ、15年ゴールドアクター、16年サトノダイヤモンド、17年キタサンブラック、20年クロノジェネシス。90年代はこういう展開はまるでなくて、最近多くなったことに気づく。こうなるとやはり前にいる馬にとってチャンスが大きい。追い込んで勝ったテイエムオペラオーはハナ差の辛勝だった。一気にまくりきったディープインパクトはそれだけ力が抜けていたということだろう。

ただ逃げ切ったのはキタサンブラックだけというのも注意が必要か。前で目標になる不利もあるはずで、ジェンティルドンナゴールドアクターのように内で脚を溜めるのがベストだと思われる。

(5)残り1600から1200でペースが落ちて6ハロン勝負

実例は91年ダイユウサク、93年トウカイテイオー、95年マヤノトップガン、96年サクラローレル、97年シルクジャスティス、02年シンボリクリスエス、08年マツリダゴッホ、09年ダイワスカーレット

この展開になると、逃げ切りが起こることも追込み馬が届くこともある。実際はそれぞれ馬場状態も違うし、その前後のペースもいろいろなので、さらに個別に見て行かないとまともな分析は難しそう。ただ一目見て気づくのは、このレース展開は90年代に多かったものの、00年以降はタップダンスシチーダイワスカーレットがいたときだけ。この10年ほどはこういう展開には全くなっていないことがわかる。では近年、(5)に当てはまらず、かといってスローでもないときにはどうなっているかというと、次の分類(6)が成立しているように思う。

(6)残り1600でのペースの落ちが不十分なまま6ハロン勝負

つまり、1600-1200で12.5-12.8くらいまで微妙にペースは落ちるものの、13秒台には落ち切らないまま、6ハロン勝負のロングスパートを迎えているケース。実例は98年グラスワンダー、02年シンボリクリスエス、18年ブラストワンピース、21年エフフォーリア。大逃げのようなそうでないような、微妙に離して逃げる馬がいるときにこうなることが多い。そして大体、そういう馬は人気を集めた強い馬ばかりだ。

98年は1番人気セイウンスカイがこのペースで離し気味にレースを引っ張り、結果4着。上位には追い込み馬が多く入った。02年に逃げたのは1番人気ファインモーション。しかしペースを落とそうとするところでタップダンスシチーにハナを奪われペースが落ち切らず、翻弄されたファインモーションは5着に沈んだ。18年にハナを切ったのは2番人気のキセキ。この当時のキセキはその後からは想像しにくいほど堅実で、GIで毎回馬券に絡む好走を見せていたけど、このレースだけは軽快に飛ばしながら見せ場は作りつつ5着に敗れている。21年はパンサラッサが飛ばして、それを単騎で追いかけたのが4番人気タイトルホルダー。結果タイトルホルダーも直線ですぐ交わされて5着が精一杯だった。これらの共通点は、人気も実力もある逃げ馬が自信を持ってペースを作っていること。後続に脚を使わせるんだけど、自身も途中で息が入っていないので、結果的に息切れを起こしてしまい、見せ場を作るだけ作って最後は掲示板止まりに終わっているのである。

一応(5)に分類した15年ゴールドアクターの年も、12.5-12.8のペースをずっと刻んだという点で、十分にはペースが落ちきっておらず、この(6)に分類してもいいのかもしれない。そのとき逃げて3着に負けたのはキタサンブラックである。その前後の活躍を見ても、ここでゴールドアクターサウンズオブアースに交わされたのは、道中十分に息が入らなかったからに見える。

 

 

長くなったけど、まとめるとざっくりこう結論付けていいかもしれない。

1周目を過ぎる前からペースが落ちたとき

・5ハロン勝負→スローすぎて後ろのキレる馬が来る (1)

・6ハロン勝負→前で引っ張った馬が残る (2)

1周目を過ぎて上り坂でペースが落ちたとき

・5ハロン勝負→前の馬・内で溜めた馬が有利 (4)

・6ハロン勝負→いろんな結末がありうるが、近年では見られない (5)

上り坂でのペースの落ち方が不十分なとき

・思いのほか息が入らない→強い逃げ馬でも最後捕まる (6)

そもそもペースが落ちないとき

・一頭だけ大逃げ→馬群が縦長になって実力馬が圧勝する (3-1)

・みんなでハイペース→前が潰れて追い込み馬が来る (3-2)

・超高速馬場→そのまま前が残る (3-3)

 

これを踏まえて、今年タイトルホルダーと横山和生がどうなるか考えてみよう。ちなみにこのコンビがハナを切った今年の日経賞は、1周目を過ぎてからペースが落ちての5ハロン勝負(4)で、前がそのまま残った。前半の遅さを考えると超スロー5ハロン勝負(1)に分類してもいいかもしれないけど、稍重だったのでキレ味勝負にはならなかった。しかし今回はGIで、しかも人気馬の逃げ。タイトルホルダーに逆らってハナを主張しようという陣営はいなくても、前半から極端なスローにはさせないはず。そもそもタイトルホルダーもスローは望んでいない。この時点で(1)と(2)が消える。一方、いったん隊列が決まってしまえばタイトルホルダーも邪魔されなければ前半から無理はしないはずで、そのまま1周目のゴール板を通過する。これで(3)も消える。スタミナ自慢のタイトルホルダー横山和生は、天皇賞で6ハロン勝負を仕掛けて7馬身差で完勝した自信がある。ラスト1000の瞬発力勝負にならないよう、1200から仕掛けてくるだろう。これで(4)が消える。

ただ問題は、残り1600-1200地点で十分ペースを落とせるかどうかということ。ここでしっかりペースを落としてから6ハロン勝負(5)に持ち込めれば、十分逃げ切れる可能性がある。しかしこんな自在なペース配分は、マヤノトップガン田原成貴ダイワスカーレット安藤勝己だからこそできた特別な芸当ではなかろうか。少なくともこの10年ほどこんなペースには一度もなっていない。それよりも、セイウンスカイファインモーションキタサンブラック、キセキ、そして去年のタイトルホルダー自身が辿ったように、上り坂で十分ペースを落とし切れないままで後半6ハロン勝負に雪崩れ込んでしまう可能性(6)の方が高い気がする。そうすると、いかに実力のある逃げ馬でも捕まってしまう。

 

ということで、さんざん悩んだんだけど、タイトルホルダーは捕まってしまう方向に賭けます。2,3着には残るかもしれないけど、いっそ消した方がすっきりする。

 

本命はイクイノックス。一説にはタイトルホルダーを倒して年度代表馬になるためにジャパンCをスキップして有馬に照準を絞ったとか(ほんとか?)。皐月賞の走りを見る限り中山競馬場のコーナーワークにも不安は無い。ルメールも過去の有馬記念では明らかにいつもより前目で競馬をすることを意識しているように見える。タイトルホルダーに照準を置いて、早めに動いてでも捕まえに行くつもりで乗ってくると思う。

3歳馬が天皇賞秋やジャパンCを勝ったのは近年で8回あって、そのうち7回はその年の有馬記念も3歳馬が勝っている。世代レベルでは決して劣らないし、前走からの上積みもあると見た。

 

ヒモにも馬群で虎視眈々と狙っていた馬が差し込んでくる可能性がありそう。有馬記念は中山実績や枠順が重要なのはよく言われることだけど、まず大前提として必要なのは体調面や馬の走る気力だと思う。調子を上げてきている、最後まで前向きに走れるような状態になければこの大一番で最後に脚を伸ばすのは難しい。

近走充実著しいのはジェラルディーナ。オールカマーは内枠、道悪のエリザベス女王杯は外枠、そして有馬記念では再度内枠を引き当てるという豪運の持ち主。そもそも親ガチャでジェンティルドンナの腹の中を引き当てるわけだから、生まれ持ったものがなんか違うんでしょうね。どうしても枠に恵まれて勝ってきた感が強かったけど、その勝ちっぷりと、非根幹距離での安定した強さ、厳しいローテながらも馬体を増やしながら成績を上げている点で、評価を下げにくくなった。昨年今頃440キロ台だったのが、今や470キロ。これは本格化と見た方が良さそう。

直線最後の伸びが一番凄いのはヴェラアズールやボルドグフーシュだけど、せっかく内枠を引いてもスタートが良くないので結果的に外を回すことになりそうで怖い。それよりはジャスティンパレスの方が良い位置取りで回ってくるかも。外枠からの発走と勝負所で前が詰まる不利を考えれば、菊花賞の3着は神戸新聞杯が決してフロックでないことの証明になった。マーカンドへの乗り替わりで展開が変わるようなら。

 

◎イクイノックス

○ジェラルディーナ

ジャスティンパレス

 

◎頭固定。買い目やヴェラアズールとボルドグフーシュをどうするかは直前まで考えます。ちなみに名前の切り方はボルドグ・フーシュらしいですよ。