小倉2000の特異性

夏競馬は苦手なんだけど、特に小倉は良いイメージがない。これまで小倉で当たったのと言えばダイシンプランの博多Sとコスモフォーチュンの北九州記念くらいか。どっちももう10年くらい前の話だから恐ろしい。


小倉記念は毎回難しいんだけど、王者メイショウカイドウにロサード、サンレイジャスパー、イタリアンレッド、エクスペディションのように小倉をやたら得意にする馬がいるのも事実。去年の大穴を出したクランモンタナも一昨年に続いて好走したリピーターだった。小倉をやたら得意にする馬がいる一方で、小倉1800と小倉2000は全然違うのも面白い。多分両方で重賞を勝った馬は近年ではメイショウカイドウだけ。小倉が他に数多あるローカル小回り平坦とはどう違うのかをちょっと整理してみたい。


小倉の1800と2000の中距離重賞と言えば、2月の小倉大賞典と8月の小倉記念。この2つはレースの傾向がまるで違う。
例えば00年以降、小倉1800重賞は逃げ、先行、差し、追い込みの勝率がそれぞれ21%, 9%, 4%, 5%とかなり広く分散する。つまりマルターズアポジーやメジロマイヤーのような逃げ切りもあるし、逆に馬場と展開次第ではヒットザターゲットやアサカディフィートのような追い込みが炸裂するケースも珍しくない。
しかし小倉2000の重賞になると、逃げ、先行、差し、追い込みの勝率がそれぞれ0%, 15%, 6%, 1%となる。つまり逃げ馬は捕まるし、かといってずっと後方にいる馬は届かない。
これは頭数とも無関係ではないだろう。小倉大賞典はほぼ毎回フルゲートになる上に、スタートしてすぐ1角を迎えるコース形態も重なって、とにかく内枠が絶対有利。外を回すとかなり厳しい。追い込み馬でも内をすくって勝つケースが目立つ。一方の小倉記念は少頭数になることが多く、スタートから1角まで距離もあるので極端な展開にはなりにくい。


しかし1800と2000で違いが出るのはどこの競馬場も大体同じ。小倉2000は、他のローカル小回り平坦2000とは違って「小倉だけは走る」という馬が現れやすいように思う。その特異性は勝ち馬の通過順位を見てもわかる。

  • クランモンタナ 2-2-2
  • アズマシャトル 12-10-9
  • サトノノブレス 6-5-2
  • メイショウナルト 5-3-1
  • エクスペディション 6-6-4
  • フミノイマージン 10-9-4
  • コスモファントム 5-5-4
  • イタリアンレッド 9-8-6
  • ナリタクリスタル 6-3-3
  • セラフィックロンプ 4-3-3
  • トゥザグローリー 10-3-2
  • ニホンピロレガーロ 7-5-3
  • ダンスアジョイ 16-8-11
  • ドリームジャーニー 12-12-3
  • サンレイジャスパー 6-6-7
  • メイショウカイドウ 13-12-8

さっきはTARGETの分類上、先行と差しが強いと言ったけど、実際にはマクリと称した方が良いほど、3,4角でどんどん通過順位を上げていく馬が勝っている。これほど毎回のようにマクる馬が勝つレースは他にはないんじゃなかろうか。



このあたりの特異性を、ラップの推移から数値的に見てみよう。
00年以降、2000の重賞で刻まれた平均ラップの推移を、各競馬場ごとにまとめてみた。ただし東京2000は天皇賞しかなくてレベルが違いすぎるので、大体G3級メンバーということで白富士Sのものを採用している。京都2000は秋華賞だけど、まあこれは古馬G3とそんなに変わらないと見ていいんじゃなかろうか。



福島、函館、札幌などのローカル小回り平坦2000はラップ推移はどれも似ている。スタートは12秒後半。そこから2ハロン目でポジション争いが激化して11秒台前半。そこから緩やかにペースダウンしながら12秒台前半のラップを刻んで、勝負所でじわじわと11秒台に突入し、最後の1ハロンはバテながらラップを落とす。ただし函館(灰色)は勝負所でもそれほどペースは上がらない。
新潟2000(青色)は最後の長い直線で平均ラップが10秒台に突入する極限の末脚勝負が待ち受けているので、向こう正面ではそれを見越してペースが落ち着く。そのためアルファベットのW型のようにペース配分が非常に際立った形になる。東京(緑色)も新潟ほどではないけど同じような形になる。
小倉2000(赤色)はそのどちらとも違う。前半3ハロンはむしろ新潟よりも速いペースで推移するにも関わらず、4ハロン目では逆にどの競馬場よりも遅い12.5までラップが極端に落ちるのである。スタート直後の速さからこれほど急な落差がある競馬場は他にない。そしてそこから一貫して12秒を切るような速いラップが6ハロンにわたって刻まれ続けるのである。このロングスパート勝負がマクる馬の台頭を生んでいる。
これと似た傾向は京都2000(ピンク)にも少し表れている。ただし京都2000では3,4,5ハロン目と緩いペースが続いて最も落ちるのは6ハロン目。そこから急加速するレースになる。


京都と小倉の特異性を生んでいるのは、もちろん「坂」である。平坦なのはあくまで直線だけ。京都はラスト1000-800付近を頂点として、内回りで高低差3メートル、外回りで4メートルの勾配がある。当然上り坂で一旦ペースが落ちてから、ラスト4ハロンが一気に急加速する勝負になる。
そして小倉にも実は高低差3メートルと京都に負けない坂があって、ゴール板の位置から1,2角の中間に向けて300メートルかけて上り続ける。そのため1角で極端にペースが落ちる。残り1300を残して下り坂を迎えて、そこから900メートルかけてダラダラと下っていくことになる。
京都外回りが3角の坂を活かしたロングスパートレースになることは有名だけど、小倉も実はそれに近い、というかそれよりも長い距離を使った究極のロングスパート勝負になっている。これがマクった馬が勝つレース展開を生んでいるのだと思う。


ちなみに同じグラフに小倉1800(赤点線)も加えてみた。小倉1800はスタートしてペースが上がりきらないまま1角を迎えてペースが落ちる。なのでスタート直後のラップは小倉2000よりもむしろ遅い。先行争いが起こる場合は、スタート後すぐに1角がある場合はペースが激化する恐れもある。しかし先行争いが起きなければ、逃げ馬にとっては楽に先手をとってゆっくり坂を上りながら向こう正面に到達することが可能である。そこから残り1300メートル。スピードに乗ってしまえばそのまま押し切れる距離だ。ここを押し切れる馬がマイペースで逃げた場合は容易に逃げ切りが起こる。しかし押し切れない弱い逃げ馬や、先行争いが1角で起こった場合には逆に前の馬には不利になる。結果後ろで溜めた馬のロングスパートがぎりぎり届く。距離的にも前の馬がそこそこ粘るので、後ろの馬がロングスパートをかけてもコーナーでの通過順位は上がりにくく、結果マクりというよりは追い込みという形でカウントされるのだろう。


そして小倉1800と比べると、小倉2000はスタートから1角までかなりの距離を速いペースで駆け抜けた後、坂を上って、そこからさらにまだ1300メートルを残している。他馬がロングスパートをかける間、逃げ馬はその長い時間ずっと後ろからのプレッシャーに晒され続ける。そのため目標にされ続ける逃げ馬が勝てなくなる。またずっと後方待機している追い込み馬も間に合わない。ロングスパートで徐々に位置を押し上げながら走りきる、極めて長い脚を持った馬でなければ勝てないコースなのだ。


京都2000との類似性は興味ある所だけど、牡馬にとって京都内回り2000を走る機会は条件戦以外あまりないので難しい。
長い脚を必要とするという点で、小倉2000はむしろローカルの中では新潟と相性がいい様に思う。クランモンタナ、エクスペディション、ナリタクリスタル、ニホンピロレガーロ、サンレイジャスパーなどは新潟も得意だった。
メイショウカイドウは福島でも強かったけど、快調に飛ばすコンゴウリキシオーを早めにマクるロングスパートで沈めたレースだった。同じ小回りでもマクって勝った馬ならきっと小倉は合うはずなんだけど。