天皇賞・秋

これまで芝GI7勝を上げた名馬はアーモンドアイ以外に6頭。そのうち最強の名を欲しいままにしたシンボリルドルフディープインパクトは4歳のうちに達成して種牡馬入りのため早々に引退した(ルドルフは海外遠征)。ジェンティルドンナキタサンブラックは他の強豪と勝ったり負けたりを繰り返しながら引退レースで大団円の7勝目。ウオッカも結果的に国内最終戦で7勝目だった。なので、アーモンドアイ以前に「8勝の壁に挑戦した馬」と言うと実質テイエムオペラオー1頭しかいない。

00年にオペラオーが前人未到グランドスラム8戦全勝を達成して、01年春の天皇賞でGI7勝目を上げたとき、8勝に届くことを当時誰も疑わなかったと思う。しかし宝塚記念では4角で不利を受けてメイショウドトウに雪辱を許し、天皇賞ではダートホースと思われたアグネスデジタルの大外強襲に合い、ジャパンCでは府中限定の豪脚を繰り出すジャングルポケットとの一騎打ちの末に敗れた。いずれも負けてなお強しという内容だったけど、全てがオペラオーを中心に回ったかのようだった4歳時と比べると、5歳時は毎回ギリギリで歯車がうまく噛み合わないのが印象的だった。最後の引退レースではスローペースに苦しみながらマンハッタンカフェのキレ味に屈して、世代交代を印象付けてターフを去った。当時の自分には00年の競馬がつまらなさすぎて大嫌いな馬だったけど、01年に王者として受けて立ち続けた戦いぶりで今となっては強い思い出の馬になった。

 

アーモンドアイの8勝目挑戦にも、それに似たような名勝負を期待したいところ。しかしこの大一番の天皇賞がたった12頭か・・・。毎日王冠を勝ったサリオスも、京都大賞典を勝ったグローリーヴェイズも、札幌記念を勝ったノームコアも、オールカマーを勝ったセンテリュオもいない。春に中距離で主役を張ったラッキーライラックやサートゥルナーリアは今どうしてるんですかね。グランアレグリアやインディチャンプみたいな馬がこの距離に挑戦してきてもいいと思うんだけどな。カレンブーケドールも女王杯か。

GIの数を増やして、海外という選択肢も増えて、休み明けから力を出す調教体制も整って、騎手や馬主は被ってるもんだから、強い馬同士の対決の機会がどんどん少なくなっていく。各々が得意カテゴリーでばらばらに活躍するから一見どの馬もそれなりの実績馬のように見えるけど、今回のメンバーなんてひと昔前のレーシングプログラムならG2で集まってた面子ではなかろうかという気がする。賞金が高ければGIなのではなく、強い馬が集まるからGIとしての価値があるはずなんだけど。

 

 

それでも一頭、打倒アーモンドアイを託せる馬が出てきたのでそれに期待したい。本命クロノジェネシス

道悪の宝塚記念で2着に6馬身、3着以下に11馬身差を付けたのは「化け物級」の強さだった。もともと良馬場でもGI級の力があり、さらに馬体もどんどん逞しくなってデビュー当初からは30キロ近く増量して464キロ。単なる道悪の巧拙だけではなく、地力の上積みが大きかったゆえの圧勝劇ではなかったかと思う。アーモンドアイも休み明けの方が得意だけど、クロノジェネシスはその傾向がさらに顕著で、休み明けで馬体を増やした時に強さを発揮し、次走使い減りした馬体で敗れるという競馬が続いている。宝塚記念以来のローテーションはこの馬にとってもベスト。今回調教後馬体重は478キロに達した。天高く馬肥ゆる秋。世代交代劇を見せてほしい。

歴史的名牝アーモンドアイも5歳になってようやく力の底が見えてきたというか、得意不得意が誰の目にも明らかになってきた。東京の高速馬場で先行して繰り出す脚は手の付けようがない「化け物級」だと思うけど、去年の有馬記念や今年の安田記念のように間隔が詰まったり馬場が少し渋ったりすると並みの一流馬になる。4歳春のドバイデューティーフリーヴィブロスとあまり差がつかず物足りなかった。奇しくも有馬記念安田記念リスグラシューとグランアレグリアが覚醒して「化け物級」になった後でもあり、状態面や展開のあやというよりも完敗と言うべき内容だったと思う。

秋の天皇賞は去年圧勝した舞台で適性の高さは疑いようもない。しかし今の東京開催は今週になってようやく時計が速くなってきたけど、それでも去年ほどではなく、天皇賞もおそらく1分58秒切るくらいの決着ではないかと思う。これくらいの馬場なら、マークされる立場・する立場の差と、今の上昇度で、クロノジェネシスがアーモンドアイを上回るのではなかろうか。

 

◎クロノジェネシス

○アーモンドアイ

 

一騎打ちを期待して馬単一点勝負にしたい。

 

スローからの瞬発力勝負になるならクロノジェネシスではなくダノンキングリーが浮上してくる可能性もある。この馬も休み明けのほうが良いタイプ。ただ天皇賞本番ではよほどのことがない限り、G2でありがちな上がりだけの勝負にはならないだろうと思っている。ダノンキングリーの不安点は斤量。小柄な馬で、54キロの毎日王冠、56キロの中山記念では素晴らしいキレ味を披露したけど、重い斤量を背負うと明らかにパフォーマンスが下がる。大敗した安田記念と同じく58キロを背負うここは不安の方が優った。

フィエールマンは長距離でこそGI級だけど2000ではG2すらすんなり勝てるか怪しい。キセキやダノンプレミアムはすっかり普通の馬になってしまった印象で、紛れの無さそうな舞台でGIを勝ち負けするのは難しいかもしれない。