スローの札幌記念

夏の重賞戦線の中でも最も注目を集める札幌記念。今年から始まったサマー2000シリーズの中でも高ポイントが加算されるGⅡ戦であり、エリモハリアーが勝てば新潟の最終戦を待たずして優勝が決まる。また今年はアドマイヤムーンが挑戦してきたように、3歳クラシック組の強豪を含めた世代間の争いが一足早く見られるレースとしても知られている。


そしてもう1つ、このレースの「顔」として忘れてならないのは牝馬の活躍だろう。エアグルーヴの2連覇、テイエムオーシャン、ファインモーション、ヘヴンリーロマンス。9年間*1で牝馬が5勝をあげた。2着にもファレノプシス、エリモシック、3着にはノブレスオブリッジがいて、これほど牝馬が上位に顔を出す混合GⅡは他にはない。
なぜこれほど牝馬の活躍が目立つのか。まぁ強い牝馬が照準を合わせてきたのが大きな理由だけど、もう1つ、レースのラップにも特徴があると思う。



札幌記念9年間の時計を平均して、1ハロン〜10ハロンのそれぞれのラップをグラフにしてみた。毎年似たような流れになるのである程度参考になると思う。さらに同じ期間で函館記念、クイーンSについても各ラップの流れを比較した。


同じ洋芝2000㍍でも、函館記念はスタート4ハロン目で12.3くらいで落ち着くと、それ以降ゴールまでペースが一気に上がることはあまりなく、むしろだんだん遅いラップを計時しながらゴールまでズブズブと流れることが多い。日本一重い芝でスピードを殺され、後半は我慢比べのレースになっている。
対する札幌記念。こちらは4ハロン目を通過した時点ではむしろ函館記念より遅いラップで流れていることが多い。しかし札幌の芝は函館に比べればまだ軽いので、その後ほんの少しずつペースアップ。勝負どころの600㍍からは一気に11秒台のラップに突入する。前半がスローで流れて、最後はキレ味が明暗を分けるというのが札幌記念の姿である。
つまり我慢比べスローのキレ味勝負かが函館記念と札幌記念の最も本質的な違い。そしてキレ味勝負なら牝馬でも互角に戦える、というのが牝馬活躍の原因の1つにあると思う。


札幌記念が必要以上にスローになっている事実は、同開催で1ハロン短いクイーンSと比較してみてもわかる。今年のクイーンS馬デアリングハートは1.46.7のレコードタイで駆け抜けたが、去年のレクレドールも1.46.7、6年前のトゥザヴィクトリーも1.46.8を記録した。オースミハルカやヤマカツスズランが楽に逃げ切ったときでさえ1分47秒台中盤の時計が出ているように、1800㍍のクイーンSは比較的速い時計で決着するケースが多い。
これだけ見れば、より出走馬のレベルが上がる札幌記念ならば1分59秒前後、たまには58秒台で決着することがあっても良さそうなものだ。だが実際には2分を切ったのがたった3回。最速でもテイエムオーシャンの1.59.5で、クイーンSと比べてやたら走破時計が遅く感じられる。これは札幌記念が前半で必要以上にペースが落ちやすい証拠だと思う。

*1:以下、GⅡ昇格以降に限定する