皐月賞馬の分類

皐月賞が終われば実力関係の見通しが良くなるかと思っていたけど、まさか逆にここまでややこしくなるとは思わなかった。
混沌の原因になった皐月賞について整理するために、過去20年の皐月賞の勝ち馬をその勝ちっぷりから以下のように4パターンに分類してみた。太字馬名はダービーも勝って春2冠を達成した馬を表している。

1. 元々前評判の高かった馬が順当に強い勝ち方をした

イスラボニータ、ロゴタイプ、ヴィクトワールピサ、ディープインパクト、アグネスタキオン、エアシャカール

2. 前評判を大きく覆して評価を一変させるほど強い勝ち方をした

ドゥラメンテオルフェーヴルメイショウサムソン、テイエムオペラオー、サニーブライアン

3. 勝ち馬も強かったが展開にも恵まれた

ゴールドシップ、アンライバルド、ネオユニヴァース、ノーリーズン、セイウンスカイ

4. 展開の恩恵がかなり大きかった

キャプテントゥーレ、ヴィクトリー、ダイワメジャー


後付け込みの主観が強く入ってるのでいろいろ異論は出そうだけど、おおよそこんな感じで分類できるんじゃないかと思う。
こうしてみると、2番目のグループ、つまり「皐月賞で評価を一変させるほど強い走りをした皐月賞馬」がダービーを勝つ確率はとても高いということに気付く。テイエムオペラオーもダービーで弱冠21歳の和田がもう少し仕掛けを我慢できていれば勝っていたかもしれないし、翌年の活躍は言うまでもない。


ノーリーズンは2番目のグループに入れてもよかったかもしれない。ただノーリーズンの評価が上がったのは、キャリアの浅さゆえに戦前の評価が単勝100倍超とあまりにも極端に低すぎたからであって、単勝15倍くらいの伏兵だったとしたら、枠の利を活かした勝利として順当に3番目のグループに入るだろう。強さの印象で言えば、ダービーのオッズが示すように、あくまで皐月賞は大外のタニノギムレットが際立ったレースだった。
それならダービーで一本被りの人気を背負ったアンライバルドは2番目のグループじゃないかと思われるかもしれないけど、この馬の人気上昇は3強の残り2頭が皐月賞でどん底まで評価を下げたことによる相対的なものであって、皐月賞の勝利が完全な前潰れという展開に恵まれたものであったことは当時から疑いようがなかったと思う。
評価が急上昇したとはいえダービーでは6番人気に留まったサニーブライアンを3番目ではなく2番目のグループに入れたのは、ダービーを見た後だから言える後付けかもしれない。でもあの皐月賞の上位はわりと追い込み馬が占めていて、決してシンプルな前残り決着ではなかった。ダービーで1番人気を背負うメジロブライトらが強い競馬をしたようには見えないし、当時を思い返しても、サニーブライアンを捕まえられない不甲斐なさで世代全体が評価を落としたレースだったと記憶している。今改めて皐月賞を見返せば、4角から直線にかけて一気に後続を大きく突き放して見せたサニーブライアンの強さが印象に残るレースだと思う。


なぜ当時サニーブライアンの評価が正当に上がりきらなかったかというと、これより歴史をしばらく遡っても、2番目のグループに分類されるような皐月賞馬がほとんどいないのだ。皐月賞前の時点で評判の高かった馬が皐月賞を順当に勝ってそのままダービーも勝つか、あるいは伏兵が皐月賞を勝ったもののそれほど評価は上がらないままダービーでは普通に負けるというシンプルなパターンばかりがかなり長い期間続いていた。それだけに当時サニーブライアンの実力を皐月賞一戦だけできちんと評価することは難しかったに違いない。
90年代半ばまでは「皐月賞は一番速い馬が、ダービーは一番運の良い馬が、菊花賞は一番強い馬が勝つ」という有名な格言があった。今となってはこんな言葉に誰も頷かない。ダービーはフルゲート頭数が減って以来運ではなく地力が問われるようになり、さらに最近は馬場が変わって枠の影響が無視できなくなった。菊花賞は有力馬が軒並み回避するようになって衰退の一途を辿っている。皐月賞も、前評判の高くない馬が勝ったら「速いだけの馬」と見なせば良かった時代はとっくに終わっていた。終わりを告げたのがサニーブライアンだった。


話が脱線しそうになったけど、皐月賞前から元々評価の高かった1番目のグループよりも、むしろ2番目のグループの方がダービーで好成績を残しているという点がなかなか面白いと思う。
この2番目のグループに分類される皐月賞馬というのは、「トライアルから皐月賞へと続く3歳春のまさにこの時期に急成長期を迎えた馬」と言い換えてもいいかもしれない。連戦の疲労でパフォーマンスを落としてもおかしくないこの時期に大きく成長しているのなら、その勢いでダービーでもさらなる成長した姿を見せ付けるということではないかと思う。
なぜこの20年でこのケースが増えたのかという点が、近年のサラブレッドの晩成化と関係あるのかもしれんけど、とりあえず話をダービーの予想に戻したい。