ダービー

いやー、驚いた。まさかフサイチホウオーにここまで被るとは。
ルドルフ以来、単勝1倍台でダービーに望んだ馬と言えばテイオー、ブライアン、ディープしかいない。ホウオーはそれに匹敵するくらい堅いのか。今年の春競馬がこれだけ荒れてるのに、それでも世間はこの馬を信じるのか。それが信じられない。


もちろんまだ前売りだけど、馬単や三連単も実質単勝1.6〜1.7倍に相当する。単勝だけが売れてるわけじゃないし、今後も大きな変動はなさそうだ。





今年のダービーは難しくて絞りにくい。展開次第でいろんな馬にチャンスがある。例年と違って一波乱ありそう、というのが俺の考え。
根拠としては、まず東京の馬場がおかしいということ。目に見えにくい馬場適性に差が出る可能性は十分ある。そしてサンデー産駒がいないこと。おかげで決して全体のレベルは高くないし、実際近年でもサンデー谷間の世代にあたる97年が唯一一番人気が連を外す結果になっている。
そしてもう一つ、今年の皐月賞がかなり特殊なレースだったこともポイント。ホウオーとヴィクトリーの上がりは丸々「2秒」違っていた。これほど上がりの違う2頭がゴール板で並ぶケースは珍しい。ヴィクトリーとホウオーは全く別の皐月賞を走っていた。果たしてこんなレースでまともな実力比較ができるんだろうか。ゴール前の脚色だけで騙されちゃいないだろうか。





1,2着馬の上がりの差が大きかった昔のレースを思い出してみると、例えば02年の有馬記念、逃げ込みを図るタップダンスシチーと差しきったシンボリクリスエスの上がりの差が1.3秒だった。05年のエリザベス女王杯のスイープトウショウとオースミハルカの上がりの差が1.6秒。この2つは確かに差してきた側が強かった。だがこういう場合、ラップは中だるみのスローであることが多く、今年の皐月賞とは異なる。
「淀みない流れ」で似たようなケースを探すと、例えばこないだの中山記念のローエングリンとダンスインザモアの上がりの差が1.5秒。03年AJCCのマグナーテンとグラスエイコウオーとの差も1.5秒あった。淀みない流れと言えば、タップダンスシチーの金鯱賞*1も忘れられない。タップが直線抜け出して最後追い込み馬*2が際どく差を詰めたところがゴールだった。これらのレースで「追い込み馬のほうが強い」と断言するのはかなり難しいはずだ。
しかし今年の皐月賞に関しては、「圧倒的にホウオーのほうが強い」とオッズが言っている。これが今回の落とし穴だと思う。



上がりに2秒もの差が出るかどうかはともかくとして、淀みないラップで流れたときに、「逃げ馬」と「追い込み馬」が好走するケースは実は決して少なくない。中段組は自分で流れを作れないまま追走で脚を使わされてしまい、結局、マイペースで気分よく逃げた馬と、マイペースでゆっくり溜めた追い込み馬に展開が向くことがあるのだ。実際こないだの皐月賞ではアドマイヤオーラだって33.9で上がってすぐ直後まで来ているし、ホウオーに外に弾き飛ばされた馬のさらに外を回したドリームジャーニーも34.1で上がっている。ホウオーだけが飛びぬけて凄い脚を使ったわけではない。
ついでに、皐月賞の週の中山競馬場ではやたら速い上がりで追い込みが炸裂するレースが頻発していたことも考慮しておく必要がある*3。じっくり溜めた馬なら末脚を引き出しやすい馬場だった。


だいたい中山競馬場の中距離戦で上がり33.9という数字自体が見るからに怪しい。過去に中山2000で上がり33秒台を記録したのはホウオーとオーラを除いて11頭いるけど*4、このうち次走で1着になった馬は1頭もいない。33.9とは前半を捨ててじっくり溜めたからこそ出た数字であって、仮に道中のペースがあと1秒速かったとして34.9より速い数字で上がれたかどうかはわからないのだ。





過去に皐月賞で負けてダービーを勝った馬というとジャンポケ、スペシャル、ウイニングチケットあたりが典型的だけど、この3頭は皐月賞で勝ちに行く競馬をして最後はしっかりバテていた。そしてダービーではゆったり溜めて末脚を引き出すことに成功したのだ。これまで何度も書いたことだけど、前走で勝ちに行く競馬をしていたか、のんびり後方待機していたかの差は無視できない。
それに対し、ホウオーは直線勝負に賭けて負けた。同じく脚を余した例ではタニノギムレットがいるけど、これは次走にNHKマイルCを選んでそこで負けている。「脚を余した馬」の次走に過度に期待するのは危険。こないだのスイープトウショウも然り。前走の上がりの数字のインパクトに騙されないほうがいい。特にホウオーの場合、キャリア5戦全て前半ゆったりの競馬しか経験しておらず、未知数の点が多すぎる。


東京3勝の実績にしても、フライングアップルと接戦したりダイレクトキャッチに差されそうになったり、内容的には微妙。スローの共同通信杯で上がり34.2だが、ダイレクトキャッチが34.0、ニュービギニングが34.4ということを考えても物足りない数字だ。走破時計も古馬1000万レベル。むしろ右回りのほうが強い競馬をしている。東京に替わって上積みがあるのか疑わしい。




以上の理由から、「フサイチホウオーは有力馬の一頭に過ぎない」というのが結論。これだけオッズが偏るのなら、外れても後悔しない。他の馬で勝負したい。













少し話は逸れるけど、90年の日本ダービーを前にした中野栄治騎手の話を紹介したい。彼は過去のダービーのVTRを何度も見直した上で、「ラスト100メートル地点で先頭にいれば、交わされることはない」と考えたそうだ*5。相手はみんな、まだ若い3歳馬。ある程度速いペースで流れれば、2400メートルの最後の最後では差し馬さえも脚が鈍る。ダービーを2300のつもりで乗れば、あと100は惰性で押し切れる。これがアイネスフウジンのダービーレコードとナカノコールを生んだ。実際、追いすがるメジロライアンも最後は脚色は一緒になっていた。
3歳馬にとっての東京2400というコースは「流れを引っ張る強い先行馬がいれば、差し馬は届かないんじゃないか」というのが俺の仮説。あんまり検証できてるわけじゃないけど、ずっと昔はそうだった。近年でも皐月賞を逃げ切ったサニーブライアンとミホノブルボンはダービーもそれ以上の着差で逃げ切っている。少なくとも「直線が長くなる分だけ差しやすい」なんて単純な図式は成り立つまい。
世間一般では出走頭数が18頭に制限されて以来ダービーは差し馬が有利だと言われているようだけど、ダービーが差し全盛だったのはサンデー全盛の頃の話であって、サンデーさえいなくなれば、また昔の雰囲気に戻るんじゃなかろうか。そういや去年も似たようなこと書いたな。















ヴィクトリーと悩んだけど、本命はサンツェッペリンに託す。


皐月賞で一旦は前に出ながらもまた差し返されたということは、基本能力ではヴィクトリーのほうが上だろうか。手前を変えないまま直線を走りきってしまったこと、キャリアの浅さによる成長度を考えても、ヴィクトリーに分がありそうだ。「ブライアンズタイム産駒」「皐月賞逃げきり」「また同じ枠順」という点でサニーブライアンとかぶって見えるファンも多いはずだし、あれを再現できればヴィクトリーの二冠ということになる。
だがヴィクトリー陣営のレース前のコメントがサニーブライアンとの最大の相違点。97年のこの時期、大西直宏は「ダービーでも絶対逃げる」と宣言して憚らなかった。これを聞いたサイレンススズカ陣営は「ならウチの馬は無理に逃げなくても」とあっさりハナを譲った。あの時点で勝負は決まっていたのだ。
一方、ヴィクトリー陣営は一冠目を見事逃げ切ってもなお控える競馬への選択肢を捨てていない*6。それだけ後ろの有力馬が気になっているということであり、それなら恐らく次こそはサンツェッペリンの松岡が逃げるんじゃないかと考えている。
最初のほうで、皐月賞と似たレースとして今年の中山記念を挙げたけど、あのレースの後で一番出世したのは、逃げ切ったローエンでもなければ追い込んだエアでもダンスでもなく、2番手を追走して4着に敗れたシャドウゲイトだった*7。本来逃げたかった馬がハナに立てず2番手の競馬を強いられると言うのはこちらの想像以上に酷なものではなかろうか。もし次にサンツェッペリンがハナを切ることができれば前走以上の粘り腰を見せる可能性はある。


サンツェッペリンはもともと1800以下で買いたいと思ってたけど、陣営が「皐月賞よりダービー、ダービーより菊花賞のほうがいい」と豪語するほどスタミナには自信があるらしい。このコメントで思い出したのが去年の菊花賞馬ソングオブウインド。戦前に武幸四郎が「この馬は凄いスタミナがある」って言ってたのに結局買わなくて後悔した*8。ドリームパスポートだってメガスターダムだって距離を克服したわけだし、短絡的な思い込みはもう捨てる。
テンビーは確かに短距離種牡馬だけど中距離以上で走ってる産駒もいる。それにテンビーの父はカーリアン。サンデー&ブライアンズタイム&トニービンの全盛時代に、唯一御三家種牡馬以外でダービー馬を輩出した血統だ。下地がないわけじゃない。


最後に付け加えると、一週前と最終の追い切りが痺れるほど良かった。これは一仕事やってくれそうな気がする。




◎サンツェッペリン




ヴィクトリーとの馬連にも惹かれるけど、2着候補を考え出したらキリがないからあんまり欲張らないほうがいいのかな。少し怖いのはゴールデンダリア。プリンシパルSの勝ち時計は優秀。意外とホウオーより強いかもしれん。
でもダービーは2年連続で馬連一点で仕留めたレースなので、ゲンを担いで馬連ってテもある。買い目はもう少し悩みたい。

*1:3連覇のうちの1年目と2年目

*2:ツルマルボーイ、ブルーイレヴン

*3:ゴールデンダリア、ブレーヴハートなど

*4:俺調べ。ローマンエンパイアとかヤマニンブリザードとか

*5:ソース見つからず。何かの本で読んだ気がするだけです。違ってたらすいません

*6:岡部はギャロップで「逃げ宣言」を勧めていた

*7:大阪杯でサムソンの2着→国際GI勝利

*8:エルコンドルパサーが長距離種牡馬だと気づいたのはレース後のことだった