天皇賞

こんな凄いレースはちょっと見たことがない。
いや、こんな凄い馬を見たことがないと言うべきか。


ナリタセンチュリーが沈んで自分の馬券のハズレを悟り、ディープインパクトがリンカーンを振り切って独走態勢に入ったのを確認してから、自然と電光掲示板の時計に目が行っていた。ラスト200㍍を切ったとき、時計は3分02秒くらいで回っていた。思わず目を疑った。
ディープがゴールしたその瞬間、時計は3.13.4で止まった。ラスト3ハロン33.5、4ハロン44.8という凄まじい数字が掲示板に踊った。そこからレコードという赤い文字が灯るまでの時間は一際長く感じた。


ラスト5ハロンのレースラップは12.7-11.3-11.0-11.2-11.3。後半1000㍍は57.5だ。先頭のブルートルネードが2200㍍地点を2.15.9で通過したとき、ディープインパクトはまだ遥か後方にいた。おそらくこの怪物はラスト1000㍍を56.3くらいで走っている。それも大外をまくりながら、最後は流す余裕さえ見せていた。


確かに今週の京都競馬は高速馬場に違いなかった。10レースの古馬1000万で1.07.8だから、他のレースも考慮するとほぼ97年のマヤノトップガンの年と同じくらいと考えていい。
マヤノトップガンのレコードは、サクラローレルの早仕掛けによってペースが上がり、バテたローレルとマーベラスサンデーを溜めたトップガンが差しきるという最高の形で記録された、不滅とも呼べる世界レコードだった。
だが今年のディープインパクトは自分から仕掛けて、バテる気配さえないままそのレコードを1秒も短縮してしまった。
このレースぶりに「ロングスパート」という言葉を使うと違和感がある。ライスシャワー、ヒシミラクル、ザッツザプレンティとは全く質が違うからだ。この馬がこの馬のスピードで走っただけに過ぎず、その気になればもっと早く動くこともできそうだ。馬自身にとっては「スパート」というより単に「動いた」程度のものなのだろう。才能が違いすぎる。


猛烈に膨れ上がった期待を周囲から背負わされ、その期待をも上回る絶大なパフォーマンスで進化し続けるディープインパクトとそのスタッフには感動する。それでいてサイレンススズカのような完成されたタイプではなく、出遅れや道中の位置取りなど改善の余地がまだ残されているのだから信じられない。


開門前の席とりの辛さも、レースの素晴らしさで一瞬で消し飛んだ。体力的な疲れだけが残った。あと何戦ディープインパクトの走りが見られるだろうか、とか考えながら競馬場を出た。