斤量の影響

東西の金杯のメンバーを見渡していて、なんかやたら負担重量重いなと思っていたら、今年から負担重量の決め方が見直されて、今までより重くなってるんですね。京都金杯なんて登録馬21頭のうち10頭が57.5キロを超えている。なんでも騎手の減量の負担を軽減させて優秀な人材を確保するためなんだとか。まあ確かに減量って大変ですからね。俺も一向に体重が減りませんよ。

この制度変更は馬券の傾向に与える影響がかなり大きいのではなかろうか。これまでは58キロというとかなりの酷量というイメージで、実際に安田記念天皇賞といった58キロを背負わされるGIではそれ特有の傾向が出ていたと思う。しかし今年からは58キロを背負う馬がどんどん現れるわけで、「斤量が競馬にどういう影響を与えるのか」をまず過去の傾向からよく理解しておかなければならない。一年の計は元旦にあり。正月休みのうちに考察しておこう。

 

まず「距離」に注目して過去を振り返ってみよう。重量が与える影響が距離によってどう違うか、直感を働かせるのはなかなか難しい。単純には、重い斤量を背負って走る距離が長くなっていく方が、影響が積み重なって行きそうな気もする。しかし斤量によって一番大きく影響を受けるのがスピード能力だとしたら、ダッシュ力が求められる短距離戦の方が影響の度合いは大きくなるかもしれない。一方で、そもそも重量を苦にしなさそうなマッチョなデカい馬ほど短距離を中心に走るという面もあるので一層複雑である。

とりあえず「重い斤量」としてパッとイメージが付く58キロという重量に限定して、2010年から2022年の12年間の芝のレースを遡って距離ごとに調べてみた。そうすると結構複雑で面白い傾向が出てきた。ざっくり言うと4つのカテゴリーに分けて考えることが出来そうだ。1000mの直線コース、1200-1400mの短距離戦、1600-2200mのマイル&中距離戦、2400m以上の長距離戦の4つである。

まず1000m戦。この距離は、函館やかつては福島・小倉でも行われていたけどあくまで2歳戦限定。58キロを背負う馬が現れるのは新潟直線コースだけである。このコースで斤量の影響が大きいことはアイビスサマーダッシュの結果からも良く知られている。斤量が重いとダッシュが利かないのだろう。( 0 2 0 10 )で見事に勝率0%である。

ただ意外なことに、1200m戦では一転して58キロの馬の成績が良くなる。どの競馬場、どの人気、どの脚質でもおおよそ万遍なく良い成績なんだけど、クラス別に見ると明らかに差があって、条件戦では( 0 3 1 38 )で勝率0%、オープン以上では( 16 8 10 77 )で勝率14%の回収率184%という極端な差が出てくる。さらにそのオープン以上の馬の成績を、馬体重別に注目してみた。てっきり重い馬の方が良い成績になるかと思ったけど、全然そんなことはない。むしろハッキリ傾向として出てきたのは「馬体重を減らして出てきた馬はダメ」ということ。マイナス4キロ以下で出てきた馬は( 2 0 0 25 )、それよりも馬体を維持していれば( 14 8 10 52 )で勝率17%で回収率228%である。びっくりですね。 1400mでも、1200mほどではないけど58キロの馬はなかなかの高い水準の成績をキープしている。

しかし1600mになると明らかに58キロを背負った馬の成績は悪くなり、その傾向は2200mまでどの距離でもほぼ一様である。1600-2200まで合計してカウントすると、58キロの馬は( 79 80 74 877 )で勝率7.1%の回収率67%に留まっている。これはクラス別や馬体重別に見てもあまり差はないんだけど、枠順別に見るとハッキリ傾向が出てきた。1-4枠は勝率5.4%の回収率35%という惨憺たる成績。しかし5-8枠は勝率8.4%の回収率92%と決して悪くない成績を収めている。やはり斤量がダッシュ力に与える影響が大きいのだろうか。スタートで後手を踏んだ時や直線で仕掛ける時、揉まれやすい内枠ほど斤量の影響が現れやすいのかもしれない。ちなみにこの内外の違いは、条件戦ほど顕著である。これは結構以外。今までもいろんな分析をやってきたけど、だいだい重賞戦線ほど明確に傾向が出てきて条件戦では差が現れないことが多い。

そして最後が2400以上の長距離戦。( 31 17 21 234 )で勝率10%の回収率124%。さらに距離別やクラス別に振り分けても、どの距離、どのクラスでも万遍なく58キロの馬は高い成績を収めているように見える。しかしここには気を付けるべき点があって、長距離戦で58キロを背負わされるレースのうち、実に69%がG1、つまり天皇賞・春なのである。ちなみに19%もG2が占めている。春の天皇賞では2012年に14番人気ビートブラック単勝159倍の万馬券を出していて、14番人気だけを除いてカウントするとG1では勝率6.0%の回収率36%に減ってしまう。まぁ天皇賞では全馬が58キロで走るわけだし、基本的には人気馬が強いGIだからしょうがないですね。しかしGIを除いてそれ以外でカウントしても、58キロの馬は( 18 4 9 62 )で勝率20%、回収率156%と好成績を収めており、どのクラスでも成績が良い。条件戦で一つ単勝万馬券が出ているのでG2,G3だけに絞ってみても、勝率20%の回収率94%だから決して悪くない。ちなみに1枠と5-8枠の成績が良く、2,3,4枠は勝率0%。馬群で揉まれると良くないのは長距離戦でも一緒なのだろう。

 

ここまでをざっくりまとめると、重い斤量は主にダッシュ力に大きく影響を与えていて、新潟直線を代表例として短距離戦やマイル戦、内枠ほど影響が出やすく、長距離や外枠になると影響は出にくくなる。ただし斤量を嫌われた結果として相対的にオッズが上がるせいか、長距離や外枠ではむしろ重い斤量の馬の方が期待値が高くなることもある。そしてこの距離別傾向を覆す例外が1200m戦で、重い斤量の馬が異様に強い。この点は金杯に関係ないのでまた別の機会に考察したい。多分ダートでもまた違う傾向が出てくるでしょうね。調べる時間がほしい。

 

 

以下では、金杯に直接関係しそうな芝1600-2200のマイル&中距離戦、それも重賞のハンデ戦に絞って考えよう。ここであらためて気になるのは、「重い斤量とは、具体的に何キロからなのか」ということである。さっきは58キロに絞って考えたけど、57キロは?57.5キロはどうだろうか?

そこを見分けるために「枠順」を利用したい。基本的に近年は内枠有利の傾向が顕著だ。しかし上記で考察したように、58キロを背負うと内枠よりも外枠の方が走りやすいのである。つまり、枠順ごとの成績を斤量別に見て行って、内枠よりも外枠の方が走りやすくなるような斤量こそが、「重い斤量」を見分ける境目と言ってもよいのではなかろうか。

こういう観点で枠順成績を斤量別に見てみた結果、ざっくり3つのカテゴリーに分離することが出来そうだ。答えから言うと、54キロ以下を軽ハンデ、55-57キロを中ハンデ、57.5キロ以上を重ハンデと定義するのが良さそうである。出走頭数の中でのそれぞれの割合は44%、50%、6%である。枠順ごとの勝率をグラフにして比較してみると、それぞれのハンデごとに傾向の違いが明らかである。

 

 

黒が全体のグラフ。1,2枠は勝率9%前後、7,8枠は勝率5%前後で、内枠の方が成績が良い。しかしこれは中ハンデの馬(緑)が支えていて、1,2枠では勝率11%、外枠では4,5%という極端な差が出ている。軽ハンデの馬(青)になると枠順ごとの差が小さくなるんだけど、どの枠順でも全体的に勝率が下がっている。これは地力の低さをハンデではなかなかカバーできていないということだと思われる。そして57.5キロ以上の重ハンデ(赤)では、全体とは逆に1,2枠の成績が悪く、3-6枠の方が遥かに成績が良い。これは上で考察したことと同じである。ただし外枠すぎるとダメというのも面白い。このあたりは多分距離やコース、脚質によっても差が出てくるところだと思う。

 

ちなみに枠順ごとの回収率という点でプロットしてみると、また違った側面が出てくる。

全体の傾向として内枠の方が回収率が高く、中ハンデの馬はその傾向がより顕著になるという点では、勝率のグラフとほとんど変わらない。重ハンデを背負った馬も大まかな傾向は同じと言っても良さそう。違うのは軽ハンデの馬だ。どうしても実力不足で負けてしまう馬が少なくないので勝率は低めだったけど、その分オッズが付くので、回収率としては決して悪くない。むしろ7,8枠の馬に至っては回収率が100を超えている。軽ハンデの馬にとってもハンデ差を活かして勝ち切るには外枠の方が有利、というのはちょっと予想していない結果だった。

 

ここまでの考察から、「マイル&中距離戦のハンデ重賞では、57.5キロ以上だと斤量の影響が出る」ということ、そしてその結果として「内枠はダメ、3-6枠の方が良い」という傾向が分かってきた。

では同じくこの条件で57.5キロ以上を背負う馬にはどう影響が出るのか、今度は馬体重別に成績を見てみよう。そうするとおおよそ500キロを境に振る舞いが変わっている。499キロ以下では( 10 17 13 92 )で勝率7.6%の回収率50%、500キロ以上では( 8 6 6 62 )で勝率9.8%の回収率111%。やはりこの条件ではデカい馬のほうが重いハンデを苦にしていないことがわかる。苦手な1,2枠を消して考えると500キロ以上の馬の勝率は13%、回収率は145%にも達する。一方で469キロ以下の軽い馬は( 0 2 1 17 )で勝率0%という数字も出てくる。重いハンデを背負って期待値が高いのはあくまでデカい馬だけ、最低470キロ、できれば500キロは欲しい。

次に競馬場別にこの条件の馬の成績を見てみる。これも面白い傾向が分かった。全体的には勝率8.4%の回収率73%だけど、京都外回りと阪神外回りではなんと勝率0%。阪神に至っては( 0 1 0 10 )で複勝率すら9.1%に留まっている。ちなみに東京ではこの距離でハンデ重賞が行われていない。長い直線コースのマイル&中距離戦では、直線まで溜めてからの末脚勝負になることが多くて、その条件では57.5キロ以上の馬は斤量がダッシュ力に与える影響が大きく不利、ということではなかろうか。なお新潟は逆に57.5キロ以上の馬はこの距離区分だとかなり成績が良い。新潟は直線が下り坂になっていて、一旦加速してしまうと馬体が重い馬ほど止まらずに末脚が持続するという側面があるので、他のコースとはやはり大きく傾向が違うのかもしれない。小回りコースの中でも小倉はかなり成績が悪いし、関東と関西で騎手の乗り方の違いももしかしたらあるかもしれない。

 

以上の結果は、あくまで去年までのものという点には注意が必要である。今年からは全体的に斤量が増えるわけなのでまた多分違った傾向が出てくるだろう。しかしそれでも斤量が与える影響とそれをどういう馬が克服できるかについて、大よその参考にはなるのではなかろうか。

ホープフルS

有馬記念は外しました。最後の最後でヴェラアズールの方を選んで、ボルドグフーシュは3着までの三連単を買って終了。我ながら良い予想が出来ていたのに詰めを誤った。ジェラルディーナの出遅れも痛かったけど、それより鞍上強化によるボルドグフーシュの素質開花を甘く見たことが敗因か。もう少し考える時間があれば正解に辿り着けていたような気がする。悔しい。

今年の勝ち分があと2000円だけ余っているので、最後にこれを使い切って終わろう。

 

GI昇格後の過去5回のホープフルSは、人気馬が先行して手堅く押し切るレースがほとんどだった。今年は確たる主役が不在で混戦模様なのと、これまで13-15頭程度だった出走頭数が初めてフルゲート18頭になるという点で違う。中山芝2000は17,18頭の多頭数になると2,3枠の成績が極端に悪くなり、1枠の先行馬か、外枠の差し馬の成績が良くなる。最内から好位を確保してレースを支配できるほど強い馬か、あるいは揉まれない外から末脚を如何なく発揮できそうな馬が狙い目。今回1枠1番にファントムシーフが入ったけど、少頭数のスロー競馬で2連勝してきた馬で、まだレースを支配するほどの力はないと判断。外枠を中心に探してみよう。

本命はミッキーカプチーノ葉牡丹賞の1.59.1は結構驚く勝ち時計。過去の2歳戦中山2000で2分を切ったのはこれを含めて4回しかなく、時計のかかる今の中山の馬場でこんなレコード近いタイムが出るとは思わなかった。中盤から全く息が入らず、最後方待機の大穴が2,3着に突っ込んでくるほど他馬が潰れ果てる展開の中で、余裕綽々の末脚で3馬身半差の圧勝。さらにデビュー戦では逆に東京のスロー競馬で先行して快勝している。負かした2,3着馬もその後強い競馬をしていてかなりレベルが高かったと思う。ややスタートに難があるので、今回揉まれない外枠はむしろ歓迎。ホープフルSの好走組はその後長距離戦線で花開くことが多いのでエピファネイア産駒という血統背景も好感が持てる。

相手も同じく外枠からキングズレインはどうだろう。前走百日草特別では先行策から敢然と抜け出していて、追い込み馬を従えながらゴールする様子はかなり強く映る。時計面でもかなり優秀で、特に後半5ハロン58.0、4ハロン45.7という数字はいずれも過去の東京2歳戦でダントツの1位。この数字で過去の上位に来るのはカミノタサハラ、エフフォーリア、ダノンベルーガあたりだけど、これらがいずれも前半が超スローだったのに対して今年のキングズレインの場合は前半からそこそこ流れていたので勝ちタイムも1.59.7の好時計。もっと評価されても良い馬だと思う。キングカメハメハ系は冬の中山2000は大得意だし、鞍上のルメールも人気が無い時こそ来るタイプ。

 

◎ミッキーカプチーノ

○キングズレイン

 

馬単一点勝負。

 

有馬記念

古馬王道GI戦線の勝ち馬が珍しくみんなでグランプリに出走してきた。3歳クラシックホースがいないのは残念だけど牡馬三冠の2着馬は一応全部いることになるし、現役で考えられるメンバーは大体揃ったようなので素晴らしい。ただそのわりに伏兵陣の中で一発を匂わせる馬を見つけるのが難しい。ウインマリリンが出ていれば買いたかったけどなあ。

 

レースのカギを握るのはやはり逃げるタイトルホルダー。この馬を中心にして今年の有馬記念がどういう展開になるかを真剣に考えてみたい。

有馬記念中山競馬場を約1周半回るレース。スタートから約900m走って1度目のゴール板を通過して、残りは約1600m。ゴール前200m地点から約100m分だけ心臓破りの急坂があることは有名だけど、それと同じ勾配の急坂が、ゴール板を超えた後で200mにわたって続く。このあたりをどういうペースでこなすかによって展開が大きく変わってくる。坂を上るわけだからペースダウンするのが当然で、典型的には、残り1600-1200mの2ハロンで13秒台までペースが落ちて、そこで先行馬が一息入れることになる。問題はその後、坂を一気に下る1200-1000の1ハロン。ここも12秒台後半で行けるようなら、残りは1000m。この5ハロン勝負になるといわゆるスローの上がり勝負になりやすい。一方、1200の時点でペースアップすれば6ハロン勝負。こうなると息の長い末脚が求められる耐久勝負になる。このあたりに注目して、90年代以降の有馬記念をいくつかのパターンに分類してみよう。

(1)超スローペースの末脚勝負

これは1周目ゴール板を過ぎる前の残り1800、あるいはその前からすでにペースダウンして、さらに残り1200でもペースが上がらず、純粋に5ハロン勝負になるケース。実例は99年グラスワンダーと11年オルフェーヴル(以下、逃げた馬ではなく勝ち馬で表現する)。01年マンハッタンカフェもここに入れてもいいか。ここまで極端なスローになると馬群が密集するので、前の馬はリードよりもむしろ後続の目標にされやすく、脚を溜めた差し・追い込み馬のキレ味が物を言う展開になりやすい。

(2)スローからロングスパート戦

残り1800あるいはその前からペースダウンしているけど、下り坂から一気にペースアップして6ハロン勝負になるケース。実例は90年オグリキャップ、92年メジロパーマー、10年ヴィクトワールピサ。7ハロン勝負だけど05年ハーツクライもここに入れていいかも。これらのレースはロングスパートなのに、後ろの馬は届かず、前の馬で決着していることがわかる。前半十分脚を溜めていれば、GI級の先行馬は6ハロン勝負でも後続を十分振り切れるということだろう。メジロパーマーなんてラスト6ハロンから11.4-11.1-11.7-11.9-12.4-13.0という大逃げで後続を振り切っている。

(3)上り坂でもペースが落ちないハイペース戦

こういうケースもある。これはさらにいくつか場合分けが必要だろう。

 (3-1) 大逃げをする馬が現れる

大逃げする馬が玉砕的な異常ラップを刻むケース。実例は94年ナリタブライアン、03年シンボリクリスエス、19年リスグラシューあたり。このときは馬群が縦長になるせいか枠順の有利不利がほぼ無くなり、総合的な能力が結果に直接反映されやすい。結果大きな着差が付きやすくなる。

 (3-2) 先行馬がみんなでハイペースに巻き込まれる

これに該当するのは09年ドリームジャーニー、12年ゴールドシップ、13年オルフェーヴル。当然のことながら先行馬はみんな潰れて、追い込み馬が上位を独占する。

 (3-3) 前が止まらない高速馬場

異常な高速馬場だと速いペースでもそのまま前が残りうる。これは04年ゼンノロブロイのみで、今の中山とは本質的に馬場が違うので参考外。タップダンスシチーと一緒に作ったこのレコードはまだ当分破られそうにない。

 

以上の(1),(2),(3)は極端な展開なので結果にどう結び付くかもわかりやすいけど、わりと例外的なケース。以下ではもう少しスタンダードに、残り1600-1200でペースが落ちつく場合を見てみよう。

(4)残り1600から1000までペースが落ちて5ハロン勝負

実例は01年テイエムオペラオー、06年ディープインパクト、14年ジェンティルドンナ、15年ゴールドアクター、16年サトノダイヤモンド、17年キタサンブラック、20年クロノジェネシス。90年代はこういう展開はまるでなくて、最近多くなったことに気づく。こうなるとやはり前にいる馬にとってチャンスが大きい。追い込んで勝ったテイエムオペラオーはハナ差の辛勝だった。一気にまくりきったディープインパクトはそれだけ力が抜けていたということだろう。

ただ逃げ切ったのはキタサンブラックだけというのも注意が必要か。前で目標になる不利もあるはずで、ジェンティルドンナゴールドアクターのように内で脚を溜めるのがベストだと思われる。

(5)残り1600から1200でペースが落ちて6ハロン勝負

実例は91年ダイユウサク、93年トウカイテイオー、95年マヤノトップガン、96年サクラローレル、97年シルクジャスティス、02年シンボリクリスエス、08年マツリダゴッホ、09年ダイワスカーレット

この展開になると、逃げ切りが起こることも追込み馬が届くこともある。実際はそれぞれ馬場状態も違うし、その前後のペースもいろいろなので、さらに個別に見て行かないとまともな分析は難しそう。ただ一目見て気づくのは、このレース展開は90年代に多かったものの、00年以降はタップダンスシチーダイワスカーレットがいたときだけ。この10年ほどはこういう展開には全くなっていないことがわかる。では近年、(5)に当てはまらず、かといってスローでもないときにはどうなっているかというと、次の分類(6)が成立しているように思う。

(6)残り1600でのペースの落ちが不十分なまま6ハロン勝負

つまり、1600-1200で12.5-12.8くらいまで微妙にペースは落ちるものの、13秒台には落ち切らないまま、6ハロン勝負のロングスパートを迎えているケース。実例は98年グラスワンダー、02年シンボリクリスエス、18年ブラストワンピース、21年エフフォーリア。大逃げのようなそうでないような、微妙に離して逃げる馬がいるときにこうなることが多い。そして大体、そういう馬は人気を集めた強い馬ばかりだ。

98年は1番人気セイウンスカイがこのペースで離し気味にレースを引っ張り、結果4着。上位には追い込み馬が多く入った。02年に逃げたのは1番人気ファインモーション。しかしペースを落とそうとするところでタップダンスシチーにハナを奪われペースが落ち切らず、翻弄されたファインモーションは5着に沈んだ。18年にハナを切ったのは2番人気のキセキ。この当時のキセキはその後からは想像しにくいほど堅実で、GIで毎回馬券に絡む好走を見せていたけど、このレースだけは軽快に飛ばしながら見せ場は作りつつ5着に敗れている。21年はパンサラッサが飛ばして、それを単騎で追いかけたのが4番人気タイトルホルダー。結果タイトルホルダーも直線ですぐ交わされて5着が精一杯だった。これらの共通点は、人気も実力もある逃げ馬が自信を持ってペースを作っていること。後続に脚を使わせるんだけど、自身も途中で息が入っていないので、結果的に息切れを起こしてしまい、見せ場を作るだけ作って最後は掲示板止まりに終わっているのである。

一応(5)に分類した15年ゴールドアクターの年も、12.5-12.8のペースをずっと刻んだという点で、十分にはペースが落ちきっておらず、この(6)に分類してもいいのかもしれない。そのとき逃げて3着に負けたのはキタサンブラックである。その前後の活躍を見ても、ここでゴールドアクターサウンズオブアースに交わされたのは、道中十分に息が入らなかったからに見える。

 

 

長くなったけど、まとめるとざっくりこう結論付けていいかもしれない。

1周目を過ぎる前からペースが落ちたとき

・5ハロン勝負→スローすぎて後ろのキレる馬が来る (1)

・6ハロン勝負→前で引っ張った馬が残る (2)

1周目を過ぎて上り坂でペースが落ちたとき

・5ハロン勝負→前の馬・内で溜めた馬が有利 (4)

・6ハロン勝負→いろんな結末がありうるが、近年では見られない (5)

上り坂でのペースの落ち方が不十分なとき

・思いのほか息が入らない→強い逃げ馬でも最後捕まる (6)

そもそもペースが落ちないとき

・一頭だけ大逃げ→馬群が縦長になって実力馬が圧勝する (3-1)

・みんなでハイペース→前が潰れて追い込み馬が来る (3-2)

・超高速馬場→そのまま前が残る (3-3)

 

これを踏まえて、今年タイトルホルダーと横山和生がどうなるか考えてみよう。ちなみにこのコンビがハナを切った今年の日経賞は、1周目を過ぎてからペースが落ちての5ハロン勝負(4)で、前がそのまま残った。前半の遅さを考えると超スロー5ハロン勝負(1)に分類してもいいかもしれないけど、稍重だったのでキレ味勝負にはならなかった。しかし今回はGIで、しかも人気馬の逃げ。タイトルホルダーに逆らってハナを主張しようという陣営はいなくても、前半から極端なスローにはさせないはず。そもそもタイトルホルダーもスローは望んでいない。この時点で(1)と(2)が消える。一方、いったん隊列が決まってしまえばタイトルホルダーも邪魔されなければ前半から無理はしないはずで、そのまま1周目のゴール板を通過する。これで(3)も消える。スタミナ自慢のタイトルホルダー横山和生は、天皇賞で6ハロン勝負を仕掛けて7馬身差で完勝した自信がある。ラスト1000の瞬発力勝負にならないよう、1200から仕掛けてくるだろう。これで(4)が消える。

ただ問題は、残り1600-1200地点で十分ペースを落とせるかどうかということ。ここでしっかりペースを落としてから6ハロン勝負(5)に持ち込めれば、十分逃げ切れる可能性がある。しかしこんな自在なペース配分は、マヤノトップガン田原成貴ダイワスカーレット安藤勝己だからこそできた特別な芸当ではなかろうか。少なくともこの10年ほどこんなペースには一度もなっていない。それよりも、セイウンスカイファインモーションキタサンブラック、キセキ、そして去年のタイトルホルダー自身が辿ったように、上り坂で十分ペースを落とし切れないままで後半6ハロン勝負に雪崩れ込んでしまう可能性(6)の方が高い気がする。そうすると、いかに実力のある逃げ馬でも捕まってしまう。

 

ということで、さんざん悩んだんだけど、タイトルホルダーは捕まってしまう方向に賭けます。2,3着には残るかもしれないけど、いっそ消した方がすっきりする。

 

本命はイクイノックス。一説にはタイトルホルダーを倒して年度代表馬になるためにジャパンCをスキップして有馬に照準を絞ったとか(ほんとか?)。皐月賞の走りを見る限り中山競馬場のコーナーワークにも不安は無い。ルメールも過去の有馬記念では明らかにいつもより前目で競馬をすることを意識しているように見える。タイトルホルダーに照準を置いて、早めに動いてでも捕まえに行くつもりで乗ってくると思う。

3歳馬が天皇賞秋やジャパンCを勝ったのは近年で8回あって、そのうち7回はその年の有馬記念も3歳馬が勝っている。世代レベルでは決して劣らないし、前走からの上積みもあると見た。

 

ヒモにも馬群で虎視眈々と狙っていた馬が差し込んでくる可能性がありそう。有馬記念は中山実績や枠順が重要なのはよく言われることだけど、まず大前提として必要なのは体調面や馬の走る気力だと思う。調子を上げてきている、最後まで前向きに走れるような状態になければこの大一番で最後に脚を伸ばすのは難しい。

近走充実著しいのはジェラルディーナ。オールカマーは内枠、道悪のエリザベス女王杯は外枠、そして有馬記念では再度内枠を引き当てるという豪運の持ち主。そもそも親ガチャでジェンティルドンナの腹の中を引き当てるわけだから、生まれ持ったものがなんか違うんでしょうね。どうしても枠に恵まれて勝ってきた感が強かったけど、その勝ちっぷりと、非根幹距離での安定した強さ、厳しいローテながらも馬体を増やしながら成績を上げている点で、評価を下げにくくなった。昨年今頃440キロ台だったのが、今や470キロ。これは本格化と見た方が良さそう。

直線最後の伸びが一番凄いのはヴェラアズールやボルドグフーシュだけど、せっかく内枠を引いてもスタートが良くないので結果的に外を回すことになりそうで怖い。それよりはジャスティンパレスの方が良い位置取りで回ってくるかも。外枠からの発走と勝負所で前が詰まる不利を考えれば、菊花賞の3着は神戸新聞杯が決してフロックでないことの証明になった。マーカンドへの乗り替わりで展開が変わるようなら。

 

◎イクイノックス

○ジェラルディーナ

ジャスティンパレス

 

◎頭固定。買い目やヴェラアズールとボルドグフーシュをどうするかは直前まで考えます。ちなみに名前の切り方はボルドグ・フーシュらしいですよ。