日本ダービー

今年の皐月賞は1.57.8のレースレコード決着。こういう風に皐月賞が高速決着に終わった年のその後について、過去の事例から考えてみる。


94年のナリタブライアンによるレコード1.59.0を基準として、これを上回るタイムが出たのは去年までに6回。
そのうち後ろが届いたのはアンライバルドの09年とディーマジェスティの16年の2回。といっても16年は前半58.4というかなりのハイペースだったにも拘わらず、後ろから届いたのは1,2着の2頭だけで、3-9着くらいまでは4角で上位にいた馬がそのまま残った。ダービーでも上位3頭がそのまま1-3着を占めたように、この世代はトップホースとそれ以外の能力差がかなり大きかった。この2頭がいなければあのハイペースでも前残りで終わっていたことになる。
アンライバルドが勝った09年はかかり気味に行った先行集団が4角で一斉に壊滅する極端な前潰れの展開になったけど、これはなかなか見られない例外的なケース。
それ以外の1分58秒台の高速決着の年は、どれも明らかに前有利のまま終わっている。それもスローで脚を溜めて前が残るのではなく、高速の中山でハイペースの流れにうまく乗った馬がそのまま止まらずにゴールしたというケースが多い。

特に有名な例はノーリーズンの単勝万馬券が飛び出た02年で、外から伸びてきたのはタニノギムレット一頭だけ。2着と4着にもタイガーカフェやダイタクフラッグが残った。他にも前残りで印象深いのは04年のダイワメジャー。この年は皐月賞上位馬全部がスピード型で、後方勢は見せ場なく壊滅。しかしダービーでは全てが入れ替わって、キングカメハメハの圧勝の流れに乗って追い込み馬が上位に食い込んだ。
ロゴタイプが1.58.0でレコード勝ちした13年も、前半58.0の超ハイペースながら4角5番手位以内の馬が上位を独占。1-4番人気がそのまま人気通りで入線したようにこの世代も上位馬とそれ以外でかなり実力差が大きかったけど、この皐月賞好走組でダービーでも好走したのはエピファネイアだけ。勝ったのは別路線組のキズナだった。
そしてドゥラメンテが勝った15年。この世代はドゥラメンテが異常に強すぎて後方からごぼう抜きしたけど、2-5着は全て4角5番手以内の先行馬で、追い込みサトノクラウンは掲示板を外した。しかしダービーではサトノクラウンが巻き返していて、他に別路線組のサトノラーゼンが2着に入っている。



つまり、高速決着の皐月賞はハイペースであろうと前が有利。そしてそういうスピードに長けた馬は高速中山中距離戦でこそ狙い目だったのであって、その後はあまりパッとしないことが多い。後々活躍できるのは、自分から動いてレースを作ったダイワメジャー、ロゴタイプ、エピファネイア、リアルスティール、サトノダイヤモンドのような一部の馬だけ。これらの馬でもダービーで活躍できるかどうかは疑ってかかるべきで、確かなスタミナの裏付けが必要になる。
タニノギムレット、ドゥラメンテ、ディーマジェスティ、マカヒキのように、高速決着の皐月賞でも豪快に差してきた馬がいた場合は文句なしに強い。ダービーでも当然最有力。
そしてそういう抜けて強い差し馬がいなかった場合は、ダービーの主役はむしろ別路線組の中にいる可能性が高くなる。






さて今年の皐月賞。
2000のオープンを2連勝してきたアダムバローズですら3角で捕まってしまい、捕まえたトラストも4角ではクリンチャーに先頭を譲ってしまう厳しい展開になった。それでも残りの先行馬はなかなか止まらない。最後ファンディーナが力尽きて7着に終わったものの、上位4頭はすべて3角の時点で5番手以内につけていた馬ばかりだった。


ここまで見れば高速決着の皐月賞にありがちな展開ということで、上位入線した馬を額面通り受け取ることはできない。そうなるとダービーに向けてまず探すのは、後ろから差してきた馬ということになる。
最後末脚が目立ったのは4角14番手から5着に入ったレイデオロ。不調が囁かれた復帰戦としては上々の内容にも見える。ただ内をうまく突いた印象は拭えない。カデナよりは好走したと言えるけど、ほぼ同じ位置取りから外を回したサトノアレスと0.2秒差では、過度の期待は禁物だろう。
それよりは6着スワーヴリチャードか。4角を回るところでやはり口向きの悪さを見せて苦しそうな走りで、最後までエンジンがかかりきらなかった。それでも外を回す正攻法で6着まで追い上げたのだから地力は高い。左回りで距離が延びれば見直せる可能性はある。ただわりと過剰人気気味。共同通信杯は相手が弱かった。
3角の一番ペースが速くなったところで外からマクって勝負に出たウインブライトは、4角を回ったところでついていけなくなった。いかにもステイゴールドらしいタイプで東京で差せるほどのキレはなさそうだ。


このあたりの差し馬が残したパフォーマンスは、タニノギムレット、ドゥラメンテ、マカヒキらに比べると明らかに物足りない。ダービーで重い印を打ってまで巻き返しに期待するのは難しい。





となると別路線組か。
青葉賞を2.23.6で制したアドミラブルはもちろん最有力候補の一角。これまで東京2400重賞をマクって勝った馬はほとんどいない。ベストアプローチに一瞬詰め寄られてからまた一伸びして突き放したのも器の大きさを感じさせる内容だった。90年以降ダービーで別路線組が1番人気になった時は( 4 1 0 0 )。96年ダンスインザダークが取りこぼした以外はしっかり人気に応えている。ここはある程度信頼してみたい。
プリンシパルSを1.58.3で制した東京3勝ダイワキャグニーも強い。こちらは先行策が取れて瞬発力勝負にもハイペースにも適応できる上に、一頭抜け出しても最後まで真面目に走る点が武器。多少地味な存在だけど十分勝ち負けになりそうな逸材だと思う。



あとは皐月賞で上位に残った組の取捨。
皐月賞出走メンバーでマイル戦1分34秒台の時計を持っていたのは4頭いて、うち3頭が上位を独占。スピードが存分に活かされたレースになった。特に1着アルアイン、2着ペルシアンナイトは、好位を確保しながら勝負所で一旦溜めて、直線最後の勝負に脚を残した好騎乗が奏功したと思う。アルアインは今回は人気を背負うし、ペルシアンナイトはダービーでは禁じ手の乗り替わり。お互い割引は必要だろう。


皐月賞組で評価するべきは、勝負所で溜めた馬ではなく、自分から動いて勝負に出た馬。4着クリンチャーと、その後ろから高い瞬発力を披露した7着ファンディーナだ。
ファンディーナは最後失速したけど、クリンチャーはその後も粘りに粘って4着に入っている。クリンチャー自身の最後3ハロンのラップはおそらく11.3-11.5-12.0くらい。ファンディーナは多分11.2-11.4-12.3くらいで、勝ったアルアインは11.4-11.1-11.7くらいだろうか。最後よく伸びたアルアインですらラスト1ハロンでは0.6秒ほどはラップが落ちている。坂もあるし、よほど溜めに溜めた馬でない限り、中山の最後にスピードダウンするのは自然なこと。
驚異的なのはクリンチャーだ。早仕掛けして最後突き放されたように見えて、こっちもラスト1ハロンでは0.5秒しか落ちていない。4角を回った勝負所で先頭を保つだけのスピードが足りずに早々と捕まってしまったことが主な敗因であって、結局最後までさほどバテていなかったことになる。これは過去の高速決着で前残りしたスピード馬たちとは少し違う。ハイペースの中で自分から動いて前を捕まえに行って、差されてもバテずになお最後まで食らいついたという点では、エピファネイアやサトノダイヤモンドに近い負け方だった。
これなら距離が伸びてなお前進が期待できる。ディープスカイ産駒はまだ4世代しかいないけど、すでに晩成かつ長距離向きの傾向がハッキリ出ている。皐月賞上位組で上積みがあるのはこれではなかろうか。



◎アドミラブル
○クリンチャー
▲ダイワキャグニー
△ダンビュライト



4頭目はスワーヴリチャード、ペルシアンナイト、アルアインあたりも悩んだけど、あえてダンビュライトを拾うことにした。
皐月賞予想では毎年人一倍気合を入れて皐月賞向きの穴馬を探すのに躍起になっているんだけど、全く想定外の穴馬に大駆けされることもある。08年キャプテントゥーレや06年メイショウサムソンあたりはもう少し冴えた頭があれば本命に推すこともできたかもしれない。しかし去年のディーマジェスティ、11年のダノンバラード、10年のエイシンフラッシュ、07年サンツェッペリン、06年ドリームパスポート、05年シックスセンスなどの当時大穴だった馬は、後から振り返っても皐月賞前の時点で高い評価を与えることは難しかったと思う。
このあたりはダービーでは3着、1着、4着、3着、3着と例外なく好走している。ダービーには出走しなかったダノンバラードもしばらく休養して不遇の時を経てから宝塚記念で穴を開けている。皐月賞前は大したことなかったのに本番で突然素質を開花させた馬は、まさに今が成長期。ここからさらに上積みして、もう一度GIの大舞台で穴を開ける可能性を秘めている。
その点で今年全く想定外の健闘を見せたダンビュライトに得体のしれない怖さを感じる。上位2頭が内で脚を溜めて伸びたのに対し、外々を回してファンディーナを競り落としてなお2頭に食らいつく芸当はなかなかできない。少なくとも高速馬場適性はハッキリしているし、それほど人気していないので押さえておくか。