スプリンターズS

ここ数年のスプリント戦線を文字通り引っ張ってきたハクサンムーンがついに引退。前年覇者で府中最強マイラーのストレイトガールも先日引退した。今のスプリント界は、高松宮記念レコード勝ちのビッグアーサーと、国内スプリントGIで僅差3,4,2着と好走続きのミッキーアイルの2強体制。今回ビッグアーサーのほうに人気が偏ってしまったのでミッキーアイルから入る。


去年のこのレースでは逃げることもできないままスローペースに巻き込まれて最後のキレ味勝負に屈して僅差4着。先行勢で最後まで勝ち負け争いに加わったのはこの馬だけだった。今年に入って松山弘平に乗り替わってからは阪急杯で久々の逃げ切り勝ち。高松宮記念でも逃げる意欲を見せたけど、ローレルベローチェとハクサンムーンの玉砕的な逃げに先手を許してしまった。その結果ビッグアーサーの良い目標にされてしまう形で涙を呑んだけど、決して能力では負けていない。ビッグアーサーの適性が時計勝負に偏っているのに対し、こちらは少々渋い馬場でもほとんど苦にしない。春以来のぶっつけ本番だけど元々休み明けから走るタイプだし、音無厩舎の過去の管理馬もカンパニー、オウケンブルースリ、サンアディユ、リンカーン、オレハマッテルゼなど、どれも休み明けからキッチリ走る馬ばかりだった。
今回はローレルベローチェもハクサンムーンもいない。スタートの速さならこの馬がメンバー中随一。好スタートからハナに立つ意志を見せれば確実に先手を獲れる。中山1200で逃げるなら、内枠よりもむしろ外から被せていくほうが成績がいいのでこの枠も何ら問題ない。
これまでの戦績を振り返れば逃げたレースでは8戦して7勝。不良馬場の安田記念以外は全勝という文句なしの成績。逃げなかったレースは( 0 3 1 5 )なのだから、やはり本領を発揮するには逃げるしかない。先行策からでもGI級の走りを見せるほどに地力と適応力をつけた今だからこそ、ハナに立っても必要以上には絡まれない。主導権を握ったときに大きな上積みが見込めると思う。
00年以降の芝のGIを振り返っても、スプリンターズSは間違いなく「最も逃げ切りやすいGI」。中山開催だけに限れば逃げ馬は( 4 2 0 8 )という高い成績で、ウルトラファンタジーも逃げに含めれば5勝を上げている。ちなみに他のGIで逃げ馬が3勝以上を上げたのは、地力の抜けた逃げ馬が3度現れたNHKマイルCと、逆にノーマークの超大穴逃げ切りを2回許した春の天皇賞の2つだけ。なぜGIの中でもスプリンターズSがこれほど飛び抜けて逃げ切りが多いかというと、スタートしてすぐ下り坂のあるコース形態が影響していると思っている。33秒台前半あるいは32秒台という限界に近いスピードで逃げたとしても、下り坂で勢いがついているだけで、GI級の逃げ馬にとっては意外と無理をしておらず、そのスピードに乗ったまま直線を迎えて急坂を駆け上がる。後続は折り合いながらついていくだけでそこそこ大変なのでじっと末脚を貯めることは難しい。フルゲート16頭で外を回した馬が直線でスピードに乗り切る前に、逃げ馬はゴールを迎えることができる。
中山の今の馬場も、先週日曜は外差しは壊滅だったし、今週の土曜の競馬も逃げ切りは1つだったけど外を回すのはかなり厳しい印象を受けた。この馬場で外から被せて先手を取れば、この相手関係なら高い確率でミッキーアイルが逃げ切れるんじゃなかろうか。
鞍上の松山弘平もこの2戦を見てるとミッキーアイルに合っているように感じる。重賞での騎乗成績が一見悪いのはほとんど人気薄にしか乗る機会がないから。3番人気以内の有力馬に騎乗したときは( 4 3 4 6 )と極めて優秀な成績を残している。ここはGIを獲るチャンス。


本領発揮したミッキーアイルを負かせるとしたらビッグアーサーだけ。1枠1番を引き当てたことで、スタートさえ決めて先行策からスムーズな競馬ができれば勝てる目が出てきた。
でもさすがに人気し過ぎた。2度の1.06.7の持ち時計に現れているように高速決着に強いけど、時計のかかる馬場では信頼性が下がる。今の中山ならGIでも1分8秒を切るのが精いっぱいだろう。高速決着で2連勝したここ2走の馬場とは全然違う。ただでさえ中山スプリントで苦戦するサクラバクシンオー産駒。関東への輸送経験も少ない。
前走で逃げてしまったこともやはり評価を下げるポイントになる。86年以降の芝のGI全てを振り返ると、「前走で逃げて1着だった馬」のGI本番の成績は( 20 29 16 298 )で勝率5.5%、回収率はたった37%。さらにこのうち「GI本番では逃げなかった馬」に限定すると( 8 17 9 207 )で勝率3.3%、回収率は17%にまで下がってしまう。普段逃げていない馬がG2やG3で突然逃げる展開になると、他馬は下手に動くことができず、結果マイペースの逃げが叶うので意外なほど圧勝・楽勝してしまう。しかしGI本番ではメンバーもやる気も違うので一転して厳しい展開になる。前走のレース運びがかえって悪影響をもたらして、本番ではサクッとコケるケースがとにかく多い。今年のセントウルSはペースは速かったけど、単騎逃げが叶った以上、ビッグアーサーにとってはストレスの少ない楽な展開だったに違いない。GI本番で一転して揉まれる競馬になると大敗の可能性もある。


人気を見ればスノードラゴンとか買いたいところだったけど、このレースで逃げ馬が残るときは多くの場合ヒモにも先行馬か内をうまく突いた馬を連れてくる。ミッキーアイルの相手には向かない。今の馬場を見てもスノードラゴンには少し厳しいか。脚を貯める前に終わりそう。


3歳馬ではシュウジ。絶不調の岩田が降りたところで買いやすくなった。函館スプリントSでは高速馬場でノーマークのソルヴェイグにしてやられたものの、一度は捕まえて勝ったような内容だった。前走キーンランドCは逃げる馬がいなくて押し出されるように先頭に立った結果、直線突き放したものの最後捕まってまた2着。札幌1200は下級条件では逃げ切りが多いけどクラスが上がるほど逃げ馬が全然勝てなくなるコースで、重賞では、新潟1000を勝った直後のパドトロワがレコードの出る高速馬場でぎりぎりハナ差で逃げ切ったことが1度あるだけ。直線で目標にされると高い確率で捕まってしまう。前走屈したブランボヌールは洋芝巧者の印象だし、斤量も51キロと軽かった。430キロ程度の小柄な牝馬にとって前走の51キロと今回53キロの違いは大きい。53キロから55キロになるシュウジのほうが対応しやすいだろう。今度は自分より速い馬を見ながらついていける展開。取りこぼした2戦の借りを返すのにちょうど良い舞台。枠も内目のいいところを引いた。


中山1200( 3 2 0 1 )で去年2着のサクラゴスペルも怖い。この馬は高速馬場ではなく時計がかかってこそ。休み明けも走る。スローからの末脚勝負で最大の能力を発揮する馬なので内枠でもあった去年が最大のチャンスだったんだろうけど、時計さえかかればそこそこ流れても走る馬だし、前にも行ける。人気薄で好走した去年よりもさらに大きく人気を落としたあたりはカレンミロティックとよく似ている。


あとはベルカントまで。中山はまだ2回しか経験がない。新潟直線コースで強いスピード馬は中山1200でも相性がいいと思っているので、コース適性自体は疑っていない。時計のかかる馬場も、2年前の新潟開催で強い競馬をしているのでこなすだろう。自身が逃げるとよくないタイプでCBC賞の負けは仕方ないし、北九州記念は56キロだった上に苦手なスローのキレ味勝負になって取りこぼしたもの。評価を下げる必要はない。問題は輸送だけ。これだけ人気を落とすのなら念のため押さえてみるか。




◎ミッキーアイル
○ビッグアーサー
▲シュウジ
△サクラゴスペル
△ベルカント



◎頭固定三連単。単勝で勝負するかどうか迷うところ。