皐月賞

皐月賞は個人的にこれまで何度か仕留めた相性の良いレース。トーセンジョーダンの戦線離脱が残念だけど、今年も気合入れて臨みたい。
ただ蓋を開けてみたら、人気の分散を少し読み違えていた。「3強」、とくにロジユニヴァースにここまで評価が被ると思わなかった。セイウンワンダー、フィフスペトル、アーリーロブスト、アントニオバローズ、ミッキーペトラあたりは例年ならもう少し人気してもいいと思うんだけど。
そしてベストメンバーが4番人気に支持されているのに一番驚いた。持ち時計の速さか、急坂コースの実績か。それとも意外と若葉Sの勝利が評価されてるんだろうか。


実際のところ、自分自身今年のトライアルの中では若葉S組に一番注目している。というのも、「3強」が制したきさらぎ賞、弥生賞、スプリングSの主要ステップが全て極端なスローペースで決着してしまったから。


http://d.hatena.ne.jp/kakuchi/20070415/p3
2年前の皐月賞の予想で、勝ち馬に求められる重要な要素として「前走の4角の位置取り」について取り上げた。トライアルをできる限り3番手以内、少なくとも6番手以内で回ってくることが望ましい。最近はJRAの公式配信やスポーツ新聞でもこの傾向がよく紹介されてるので、もしかしたらいずれ皐月賞馬券検討の常識のようになるのかもしれない*1
中山2000メートルのGIは、厳しいペースときついコーナーワークの中で、いかに自分の実力を発揮できるかという適応力が要求される。トライアルでのんびり後方待機して末脚勝負に徹していたような馬は実力を発揮できずに負けることが多い。仮に本番で差しに回るとしても、前哨戦の時点で積極的に仕掛ける経験値をつけてきた馬の方が本番の成績が圧倒的にいい。
その点で、今年のきさらぎ賞、弥生賞、スプリングSはどれも直結しにくい印象を受けた。例年皐月賞で沈む典型的差し馬に見えるアンライバルドに重い印は打てない。ロジユニヴァースやリーチザクラウンにしても、前走は逃げたとは言え何のマークも受けずにスローで回ってきただけ。性能の高さは示したが、本番ではどちらもハナには立たないだろうし、よりメンバーが揃うGIに向けて経験値を上積みをするような前哨戦ではなかった。



それに比べれば、一見地味なメンバーで行われた若葉Sの方が内容が濃かったと思う。当時非常に時計のかかっていた阪神の芝を思えば道中は息をつく暇のない流れで、ラスト1200メートル地点から12.3-12.4-12.3-11.7→12.2→12.0。勝ち時計2.02.1はAコース開催期間中ではダントツの時計だ。特に最後の1ハロンでもう一度ラップが伸びている点は興味深い。極端なスローでもない限り阪神ではなかなか見られない。
出走馬のレベルについても、3着以下のトップカミング、ヤマニンウイスカー、カノンコードの実績は、他のトライアルで掲示板止まりの馬達と比較してそれほど劣るとは思えない。こいつらを2馬身以上引き離して優先出走権をもぎ取ったベストメンバーとトライアンフマーチの2頭は侮れない。


1着ベストメンバーは、それ以前にもハイペースの寒竹賞で力強く2馬身抜け出して勝った実績がある。厳しいペースに対する適性の高さと経験値なら世代ナンバーワンだろう。ここまで急坂コースでは3戦3勝。平坦コースの瞬発力勝負では2敗しているが、いずれも4着と大きくは負けていない。いずれ大仕事をやってのける可能性を秘めた逸材だと思う。
ただ他力本願な脚質から見ても、皐月賞を勝ち切るようなタイプじゃない。連勝馬券の売れ方を見ると単勝約15倍相当の4番人気。これは過剰評価されすぎたか。




むしろそれ以上に注目したいのは若葉S2着のトライアンフマーチ。
父スペシャルウィーク、母キョウエイマーチ。ノーザンファーム生産で角居厩舎所属。生まれと育ちは超一流だが、年明けデビューから2連敗。当時は追い切りでも未勝利馬に遅れをとっており、レースの直線でジグザグ走行する若さも見せていた。
3月になって、馬体を大きく絞って臨んだ3戦目から馬が変わってきた。このレースは、逃げ先行絶対有利だった開幕週の阪神競馬で唯一ゴール前一気の差し切りが決まったレースでもあった。しかも直線で一旦前が詰まる絶望的な不利を受けてからの猛追撃でハナ差の勝利。2着のナリタクリスタルもその後順当に勝ち上がって昇級戦でも好走している。なかなか価値のある未勝利勝ちだったと思う。
そして若葉S。スタートから行きたがる仕草を見せながら先行集団の直後を追走し、4コーナーで3番手まで浮上。一旦詰まる場面があったにも関わらず、厳しいペースで脱落していく馬たちを尻目に内から馬群を割って抜け出してきた。外から追いこんで加速してきたベストメンバーに一気に並びかけられてからも一歩も譲ることなく食い下がり、馬体を併せたまま最後まで伸び続けて同タイムでゴールした。本番ではかなり高い確率でベストメンバーには先着すると思う。
先行できるスピード、内で我慢して馬群を抜け出す経験、厳しいペースへの耐性と最後まで衰えない持続力。皐月賞で必要とされるファクターのほとんどを前走で示した。もともと溜めればキレる脚も使える。あとは、戦績に傷の付いていない強豪相手にどこまで能力が通用するか、そして騎手がうまく捌いてくれるかどうかの2点が問題になる。
絶対能力については走ってみなければ分からないけど、この1〜2か月で急成長していることから、体調面と勢いで大きなアドバンテージがある。つい2か月前の追い切りが嘘のように、今ではポップロックやデルタブルースにも楽に先着するようになった。今がまさに成長の真っただ中。若葉Sから1か月が経過してさらに一回り力をつけている可能性が高い。
鞍上は引き続き武幸四郎。これが一番不安で仕方ないんだけど、枠順だけはかなりいいところを引いた。ロジユニヴァースと同じような位置取りで出し抜けを食らわせるようなレースができればチャンスはあると思う。あとは3年おきに3歳GIで大穴をあけるこの男のジンクスに頼る。


いろんな場所で穴馬候補として取り上げられていたのでもっと穴人気するかと思ったけど、連勝馬券で10番人気、単勝でも40倍はつきそうだ。ダイワメジャーが30倍しか付かなかったことやベストメンバーとの比較で言えば悪くない数字だと思う。アタマまで期待したい。



◎トライアンフマーチ
○ロジユニヴァース
▲リーチザクラウン



ヒモはもう少し悩む。
ロジユニヴァースはかなり強いと思うので○を打ったけど、この2戦で評価が上がりすぎた気はする。ラジオNIKKEI杯の4馬身は、リーチザクラウンの自滅と時計のかかる馬場への適性の差。無敗の馬だからこその重箱の隅をつつくような話だけど、この馬の走りにはスピード感をあまり感じない。弥生賞当時とは4秒違う決着になった時にパフォーマンスが落ちる可能性は高い。最内枠という枠順も、1倍台の圧倒的人気馬にとってあまり歓迎はできない。横山典弘のGI一番人気の成績もあまり良くない。
リーチザクラウンは素質ならロジユニヴァースより上じゃないかと思っている。大外枠を引いたことで思い切って逃げるようならそのまま押し切るかもしれない。ただぶっつけのローテーションだし、ダービーへの思い入れが人一倍強い陣営なので、本気で皐月賞を勝ちに来るとは思えない。
ベストメンバーはちょっと人気しすぎたか。セイウンワンダーあたりの「思ったほど人気しなかった実績馬」が少し怖いけど、3歳春に一旦調子を崩した2歳王者が簡単に巻き返した例は記憶にないし、他の間隔の開いた馬たちも狙いにくい。大穴ではゴールデンチケットの上昇度が気になるけど、人気馬にまとめて先着するほどの期待をしていいものかどうか。

*1:そうなるとまた傾向が変わったりするのが競馬の面白いところだけど、多分あと数年は大丈夫だろう