柴田善臣の変身

先週のウオッカを今一つ信用しきれなかった人の中には、海外帰りの馬の体調だけでなく、今年絶不調の鞍上・武豊に不安を覚えた人が少なくなかったと思う。5月に入ってからの固め勝ちでようやくリーディングの定位置を射程圏に入れてきたとはいえ、今の武豊に全盛期の面影はほとんどない。
もう一人、今までのイメージとの大きな違いが目立つのは柴田善臣大先生。ヘルニア手術で出遅れてリーディング上位に名前がないにも関わらず、「乗れている」印象があって存在感が強い。そのイメージを確かめるために、ヨシトミの成績についてまとめてみた。


まず、86年〜昨年末までのヨシトミの「勝率」をレース番号別に分けてみる。

  • 1R 14.1%
  • 2R 13.8%
  • 3R 13.2%
  • 4R 11.0%
  • 5R 13.4%
  • 6R 12.9%
  • 7R 13.8%
  • 8R 13.1%
  • 9R 12.1%
  • 10R 12.0%
  • 11R 9.3%
  • 12R 12.1%

特徴はもちろん、11Rだけ著しく勝率が低いこと。15000回近い騎乗回数を通して他のレース番号とここまで有意な差がつくのだから、偶然や誇張ではなく、メインレースを勝てない明確な原因があるとしか思えない。メインはいい馬が集まらないのか、それとも本人の勝つ意志が薄いのか。
メインレースに1622回騎乗して( 151 150 171 1150 )。3着が多いイメージも数字にきっちり現われている。ちなみにメインレース以外では3着回数は決して多い方ではない。


このヨシトミ先生の、今年の成績と勝率を同じように調べてみた。

  • 1R ( 1 1 1 7 ) 10.0%
  • 2R ( 2 2 1 12 ) 11.8%
  • 3R ( 2 1 1 16 ) 10.0%
  • 4R ( 0 0 2 5 ) 0.0%
  • 5R ( 2 1 5 15 ) 8.7%
  • 6R ( 3 2 2 11 ) 16.7%
  • 7R ( 0 1 2 11 ) 0.0%
  • 8R ( 1 2 0 11 ) 7.1%
  • 9R ( 0 2 1 15 ) 0.0%
  • 10R ( 0 2 1 17 ) 0.0%
  • 11R ( 5 2 2 12 ) 23.8%
  • 12R ( 0 5 4 12 ) 0.0%

これまでの23年間と傾向が180度違っているから面白い。全体の成績は勝率8%程度の全国リーディング31位に甘んじているものの、メインレースに限って成績が超優秀なのだ。

今日のメインも5番人気ファルタカリアで勝利。先週ショウナンラノビアをGIで3着に持ってきたのも記憶に新しい。その前にもマッハヴェロシティとケイアイライジンで続けざまにダービー優先出走権をもぎ取った。他にも、後の天皇賞・春で武豊に乗り替わって大きく人気を裏切ることになるモンテクリスエスを、日経賞で僅差3着に持ってきたのもヨシトミ先生だ。
ちなみにメインに騎乗した21レースのうち、二桁人気の格下馬に騎乗した時を除けば、騎乗成績は( 5 2 2 3 )。特に超一発の大穴をあけたわけでもないのに単勝回収率は452%に達しており、着外に敗れた3レースも5,6,7着と決して大きく負けていない。
また、これだけ安定して好成績を上げているにも関わらず、メインレースで1番人気に騎乗したのは実は僅か1回だけ。しかもそれは「1番人気が12年連続敗退中」のダービー卿CTで、騎乗馬は通算成績13戦1勝と勝ち切れないタケミカヅチだった。この難しいレースをタイム差なしの接戦で見事勝利したことも強調しておきたい。


今のヨシトミ先生は、長年培ってきたイメージとは裏腹に、「メインレースでこそ成績の上がる騎手」であり、「メインレースで今一番乗れている騎手」と言ってもいい。ヘルニア手術後の体調がよっぽどいいのか、あるいは自分の年齢的なことや若手の台頭もあって何か心境の変化でもあったのか。それとも変わったのは周囲の方だろうか。いずれにせよ、デビュー25年目でついに本気を出し始めたヨシトミの活躍には注意しておきたい。